2021 Fiscal Year Research-status Report
休眠中の動物が少ない酸素消費量でも生きられるのはなぜなのか?
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21K20749
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
小野 宏晃 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (80908591)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 冬眠 / 休眠 / 低代謝 / CRISPR/Cas9 / シングルセルトランスクリプトーム |
Outline of Annual Research Achievements |
動物には冬季・乾季などのエネルギー供給が少ない状況で生存するために、能動的にエネ ルギー需要を低下させた状態(休眠)になる種が存在する。休眠中は、低代謝による細胞への障害に耐性を示し、低酸素障害を受ける水準の「少ない酸素消費量」でも生存が可能となる。そこで本研究では、マウスを休眠様低代謝状態に誘導する方法(Takahashi et al., Nature, 2020)をベースに、細胞レベルの低代謝耐性評価系と、肝臓をモデルとしたレンチウイルスによる1細胞ノックアウトを組み合わせることで、低代謝耐性に重要な遺伝子をゲノムワイドにスクリーニングする。得られた遺伝子の改変マウスを用いることで低代謝耐性と遺伝子の因果関係を明らかにする。 2021年度は本研究課題の遂行に必要な技術の導入を行った。まず、肝臓においてin vivoでゲノム編集を誘導するためにRosa26領域にCas9をKIさせて全細胞でCas9を発現するマウス(Platt et al., Cell, 2014)を導入した。また、標的となる肝臓細胞にgRNAをデリバリーする方法であるレンチウイルスを安定的に作製できる環境整備を行った。次に、細胞レベルの低代謝耐性評価系に必要となる肝臓細胞を1細胞ごとに分散してサンプリングする系として、肝臓に経門脈的にコラゲナーゼを還流するプロトコルを確立した。その際に、コラゲナーゼの種類、還流速度、温度、門脈へのアプローチ方法を順次最適化することで、十分な生存率(> 90 %)かつ高収量(107細胞数オーダー)で肝臓細胞をサンプリングできるプロトコルに整備することができた。 2022年度は前年度に確立したプロトコルを用いたゲノムワイドな1細胞レベルのスクリーニングを実施する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験計画通りに、Cas9全細胞発現マウス(Platt et al., Cell, 2014)を導入し、十分な匹数のホモ個体とヘテロ個体を得ることができた。次のステップとして、Qrfp-iCreマウスと交配をさせている途中である。レンチウイルス作製系の樹立に関しては、京都大学iCeMSの鈴木研究室の協力で滞りなく進められた。そのおかげで、10^10ゲノムコピー/ml程度のウイルスを安定的に作製することができている。現在のところ、感染力に基づいた実効的な力価測定はできていないが、P2環境下で利用可能なFACSの共用設備として利用が開始されたため、順次進めていく予定である。 肝臓を1細胞ごとに分散してサンプリングする系の樹立については、肝臓細胞の生存率と収量を指標としてコラゲナーゼの種類と濃度、還流速度、温度、門脈へのアプローチ方法を順次最適化していった。その結果、生細胞を濃縮しなければ肝臓細胞の生存性を維持することが難しいことが判明した。研究計画の段階では、低代謝誘導に伴う細胞死を指標としたスクリーニングを実施する計画であったが、これでは正常状態であっても相当数の細胞死が含まれてしまうためノイズが大きいスクリーニング系になってしまう。 そこで低代謝状態の分子マーカーを指標にしたスクリーニングに切り替えることにした。計画変更に伴い肝臓分散プロトコルに密度勾配遠心によって生細胞を濃縮する方法を採用することで、生存率(> 90 %)かつ高収量(10^7細胞数オーダー)で肝臓細胞をサンプリングできるプロトコルに整備することができた。現在は、このプロトコルを肝臓シングルセルトランスクリプトームと組み合わせて低代謝状態の分子マーカーを同定する予定である。 以上から、研究計画に一部変更の余儀なくされているものの、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は初めに肝臓のシングルセルトランスクリプトームを推進していく。サンプリングの条件をコントロールしたうえで、共発現ネットワーク解析等の統計解析技術と組み合わせることで、低代謝状態かつ低体温状態を呈するQIHから低代謝状態に寄与する遺伝子群を抽出する。そのうえで、得られた転写産物への抗体を用いて低代謝状態の細胞を識別する。また、in vivoスクリーニングを実施するために、全細胞Cas9発現マウスの肝臓にgRNAをデリバリーすることで、in vivoで肝臓細胞の遺伝子をノックアウトできることを確認する。既にゲノムワイドなgRNAライブラリーは入手済みであるため、上記の低代謝状態の分子マーカーが確立されれば、分子マーカーの発現量低下を指標にしたゲノムワイドなin vivo 1細胞ノックアウトスクリーニングを実施する予定である。
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Causes of Carryover |
研究計画に一部変更が生じたため、本年度中に実施予定であったスクリーニングが次年度に延期になったため。
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