2021 Fiscal Year Research-status Report
SアデノシルメチオニンのBリンパ球分化・活性化での機能の解明
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21K20770
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
加藤 浩貴 東北大学, 大学病院, 助教 (50801677)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | メチオニン代謝 / B細胞造血 / エピゲノム |
Outline of Annual Research Achievements |
Bリンパ球は液性免疫を担う獲得免疫細胞であり、その異常は自己免疫疾患をはじめとするさまざまな疾患の発症に関わると考えられている。Bリンパ球が前駆細胞から成熟細胞まで正常に分化するためには、必要な時期に必要な遺伝子の発現が誘導されると同時に、不必要な遺伝子の発現は抑制される必要があると考えられる。このような複雑な遺伝子発現の調節には、DNAやヒストンのエピゲノム修飾の調節が深く関わっていると考えらえる。 Sアデノシルメチオニン(SAM: S‐adenosylmethionine) は、DNAやヒストンのエピゲノム修飾のなかでも代表的な修飾の一つである、メチル化修飾に必要なメチル基の主な供与体である。よってSAMはB細胞のエピゲノム修飾に直接関わりうる代謝物である。研究代表者らはこれまでに、SAM合成の阻害がB細胞の活性化を抑制することなどを発見した。Bリンパ球の(前駆細胞から成熟細胞への)分化や(抗原やサイトカイン刺激による)活性化にエピゲノム修飾が重要である可能性が考えられるが、そこにSAMがどのように関わっているか不明な点が多い。SAM代謝の調節はBリンパ球の分化や活性化の調節を介して自己免疫疾患などさまざまな疾患の予防や治療に有効である可能性が考えらえるが、その実現にはいまだに至っていない。 本研究では、独自のマウスモデルを駆使してBリンパ球の分化や活性化におけるSAMの重要性の解明を行う。さらに、独自の技術を駆使して新たなSAM合成阻害剤の開発に挑戦する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者らのこれまでの知見から、SAMがBリンパ球の分化や活性化に重要であることが強く予想されたものの、生体内でのSAMの重要性については不明な点が多かった。生体内でのSAMの重要性を明らかにするために、Bリンパ球特異的にSAM合成酵素を欠損させたマウスを作成したところ、骨髄や脾臓でBリンパ球数が著減することが申請時までに明らかとなった。さらに解析を進めたところ、実際に本マウスのBリンパ球ではSAM合成酵素の活性が落ちていることが質量分析でも確認できた。さらに、Bリンパ球の各分化段階の細胞数の変化を確認したところ、骨髄のFraAまでは酵素欠損マウスでも細胞数が保たれており、FraB以降で酵素欠損マウスではBリンパ球数が低下していることが明らかとなった。このとことから、FraAからFraBにかけてのBリンパ球分化にSAMが重要である可能性が考えられた。本所見と一致して、FraAからFraBにかけてSAM合成酵素の発現が増加することを示唆する知見を得ている。一方で、薬剤投与により造血細胞特異的にSAM合成酵素の欠損を誘導可能なマウスを用いた解析でも、SAM合成酵素の欠損はBリンパ球数の減少を惹起することを確認している。予定していたマウスの作成はすでに終了し、解析も速やかに進んでいる。SAM関連代謝物に関する質量分析も問題なく実施できている。引き続き解析を継続し、再現性の確認および機序の解明を実施していく。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の推進に必要なモデルマウス(Bリンパ球特異的SAM合成酵素欠損マウス、薬剤投与で造血細胞特異的にSAM合成酵素欠損が誘導可能なマウス)の作成は終了し、実際にBリンパ球造血にSAMが重要であることを示唆する所見を得ており、特にFraAからFraBにかけてのBリンパ球分化にSAMが重要である可能性を考えている。今後は、これらの細胞分化段階におけるSAM関連代謝物の変化を質量分析で、遺伝子発現変化を網羅的遺伝子発現解析(RNAseq)で明らかにし、Bリンパ球造血でのSAMの重要性を究明する。ここにはエピゲノム修飾が関わる可能性が想定され、クロマチンの状態変化を網羅的オープンクロマチン領域解析(ATAC-Seq)やヒストンのメチル化に関する解析を可能な限り実施していく。SAM代謝を標的とした自己免疫疾患の治療法の開発を目指して、SAM合成阻害剤の合成を薬学部との共同で実施しており、候補化合物ができ次第、酵素阻害活性を確認する。既存の阻害剤と比較しても有望な化合物が同定された場合には、自己免疫疾患モデルマウスへの投与などにより、その有効性と安全性を明らかとする。これらの研究の推進により本研究の目的が達成され、Bリンパ球におけるSAMの重要性が明らかになることが期待される。
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Causes of Carryover |
マウスの作成や予定していた解析が順調に進行したことなどの理由により次年度使用額が生じた。次年度には次世代シークエンス解析やさらなる質量分析などにより、本年度と比較してもさらなる研究費が必要になると考えられる。よって、次年度使用額は次年度中に消化される予定である。
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Research Products
(2 results)