2021 Fiscal Year Research-status Report
ポリオーマウイルス感染症におけるウイルスcircRNAの同定および機能解明
Project/Area Number |
21K20786
|
Research Institution | National Institute of Infectious Diseases |
Principal Investigator |
飯田 俊 国立感染症研究所, 感染病理部, 研究員 (50785996)
|
Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
Keywords | ウイルス / ポリオーマウイルス / JCポリオーマウイルス / circular RNA |
Outline of Annual Research Achievements |
Circular RNA (circRNA) は,真核細胞内での遺伝子発現制御を担う環状1本鎖RNAである.近年,ヘルペスウイルスやポリオーマウイルスなどのDNAウイルスが,感染細胞内においてcircRNAを発現することが明らかとなっている.これらのウイルスは悪性腫瘍を含む様々なヒト疾患の原因病原体として知られているが,その病態形成におけるウイルスcircRNAの意義や,各疾患における発現プロファイルなどは,今なお十分に解明されていない.本研究では,JCポリオーマウイルスをはじめとしたポリオーマウイルスが発現するcircRNAを同定し,ウイルス関連疾患の病理検体 (ホルマリン固定・パラフィン包埋検体) におけるcircRNAの発現量や局在の解明,培養細胞を用いたcircRNAの機能解析を目指している. 本年度の研究では,培養細胞内で効率良く複製するJCポリオーマウイルス株のウイルスゲノムをCOS-7細胞に導入することにより,circRNAの発現や機能の解析に有用な実験系を立ち上げた.また,RNase R treatment,polyadenylation,and poly(A)+ RNA depletion (RPAD) 法と次世代シークエンシングを組み合わせた網羅的探索により,JCポリオーマウイルスゲノム導入後の細胞より得られたRNA検体から,複数のウイルスcircRNA候補を見出した.これらのcircRNA候補について,細胞内における実際の発現の有無をRT-PCR法で検討することにより,JCポリオーマウイルスが少なくとも1種類のcircRNAをコードしていることを明らかにした.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒト疾患の原因となるポリオーマウイルスのうち,メルケル細胞ポリオーマウイルスおよびTrichodysplasia spinulosa-associated polyomavirusについては,circRNAをコードすることが先行研究により明らかとなっていた.しかし,ヒトに感染するその他のポリオーマウイルスについては,circRNAの発現の有無はこれまで解明されていなかった.そこで本年度は,これらのポリオーマウイルスのうち,進行性多巣性白質脳症の原因病原体として知られるJCポリオーマウイルスに着目し,ウイルスがコードするcircRNAの同定を目標とした.その結果,次世代シークエンサーによる網羅的探索を通じて,JCポリオーマウイルスが少なくとも1種類のcircRNAをコードしていることを,世界で初めて明らかにした.
|
Strategy for Future Research Activity |
ウイルス関連疾患におけるウイルスcircRNAの発現プロファイルや,各疾患の病態形成における意義は,今なお未解明な点が多い.特にJCポリオーマウイルスについては,ウイルスゲノムを導入した細胞内におけるウイルスcircRNAの発現が確認されたものの,進行性多巣性白質脳症などの病変部におけるウイルス感染細胞内での発現の有無については明らかにされていない.また,感染細胞内でのウイルスや宿主の遺伝子発現制御において,ウイルスcircRNAが担う役割も未解明である. 今後は,我々が同定したJCポリオーマウイルスcircRNAについて,リアルタイムPCR法やin situ hybridization (ISH) 法を応用した発現量・局在の解析手法を確立する.これらの解析手法により,進行性多巣性白質脳症の病理検体などにおけるウイルスcircRNAの発現プロファイルを明らかにする.更に,培養細胞を用いたウイルスcircRNAの過剰発現やノックダウンの実験系を確立したのち,ウイルスcircRNAがウイルスおよび宿主の遺伝子発現へ与える影響を次世代シークエンサーを用いて解析する.
|
Causes of Carryover |
JCポリオーマウイルスがコードするcircRNAの候補について次世代シークエンサーによる網羅的探索をおこなったところ,当初の予想より多くのcircRNA候補が見出された.その結果,これらのcircRNAが実際に発現しているかを検証するために予定より多くの実験を要したことから,今年度に計画していた実験の一部が次年度に持ち越された.これらの実験を次年度に実施し,その費用として使用する.
|