2022 Fiscal Year Research-status Report
小児脳腫瘍におけるSRCシグナルによる発がん機構の解明と新規治療法の開発
Project/Area Number |
21K20853
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Research Institution | National Center of Neurology and Psychiatry |
Principal Investigator |
足立 透真 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 病態生化学研究部, リサーチフェロー (70911973)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2024-03-31
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Keywords | Group4 髄芽腫 / 小脳顆粒細胞前駆細胞 / グリア細胞 / 分化転換 |
Outline of Annual Research Achievements |
髄芽腫および膠芽腫は小児の小脳で生じる代表的な悪性脳腫瘍である。これらの腫瘍は発生部位や形態学的な違いを基に病理学的に分類されてきたが、同じ腫瘍と診断された場合でも放射線治療や化学療法に対する感受性が異なることが多い。その理由として、個々の患者ごとに特徴的な様々な遺伝子変異が原因となり、異なる分子シグナルががんの増殖を制御している可能性が提唱されている。したがって個々の腫瘍の特徴を分子レベルで正しく理解し、腫瘍の特徴に応じた個別化治療を行う必要がある。本研究において申請者はGroup4 髄芽腫の起源細胞は、小脳細胞のうち生後まで増殖能を維持し、生体脳で最も細胞数が多いとされる小脳顆粒細胞の前駆体(GNP)なのではないかと考え、研究を行なってきた。これまでの研究において、遺伝子A, Bを同時に過剰発現した際に、驚くべきことに、神経芽細胞由来とされる髄芽腫ではなく、オリゴデンドロサイト由来と見られる膠芽腫の誘導が確認された。また、培養下においてウイルス感染後 48 時間で GNP がオリゴデンドロサイトおよび膠芽腫の分子マーカーである OLIG2 を発現し、分化転換することを確認している。さらに申請者は、Cre-LoxP システムを用いて胎仔小脳の細胞種特異的に 遺伝子A,Bを活性化させ、髄芽腫と小脳膠芽腫という全く異なる腫瘍が形成されることを確認した。これらの結果を踏まえて、現在申請者は小脳の特に発生期において細胞が分化転換を引き起こす現象に着目し、その分子機序の解明を目指している。現在はその中でも、複数の脳領域の細胞種において分化転換を引き起こす可能性のあるがん原遺伝子Cに着目しており、遺伝子Cの機能解明、そして、機能不全の結果誘導される分化転換と、その後引き起こされる疾患にも焦点を当てて研究を推進している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実施予定であった「腫瘍形成に対するGNPのオリゴデンドロサイトへの分化転換の寄与を制御する分子機序の解明」という目的に関しては順調に結果が得られ、現在はそれらの結果を踏まえて、複数の脳領域の細胞種において共通する、分子転換を引き起こす分子機序に着目した研究を推進している。この分化転換の分子機序は複数の脳領域における発生、そしてそれらの脳領域において引き起こされる疾患に関与している可能性が示唆されており、申請時から2年が経過した現在における進捗としては概ね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は上述した分化転換の分子機序をより詳細に追及していく予定である。現在までに、特にグリア細胞における分化転換現象に関しては、既に明確に確認が取れている。そのため、まずグリア細胞を用いた遺伝子Cの関与した分化転換の分子機序の解明を試みている。現在着目している二つのグリア細胞は、その両方においてタンパク質Cを同程度発現している。しかしながら、興味深いことに、遺伝子Cの発現を抑制、あるいは欠損させると、片方のグリア細胞種においてその性質が明確に変容し、異なるもう一つの細胞種へと性質が転換することが示唆されている。現在申請者らはこの現象に関して、(1)片方のグリア細胞においてのみ、発現する特異的タンパク質Dが、Cのコファクターであり、Dと結合している際にのみ、Cの標的配列が変化する可能性、(2)それぞれのグリア細胞種においてクロマチン状態が異なっており、その結果、転写因子であるタンパク質Cが転写できる領域が変化している可能性、の二つを検討し、解析を実施している。既に二つのグリア細胞を培養する系の研究室における立ち上げは済んでおり、二つのグリア細胞を異なる色でラベリングしたマウスを用いて、この培養を実施し、ATAC-seq、Cut and tag、IP-MSなどのオミクス解析を行うことで、分化転換の分子基盤を同定していく予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、昨年度予定していた国際学会への参加と、オミクス解析の実施を、本年度に見送ったためである。上述の学会参加とオミクス解析を本年度に実施することで、繰り越した残額を使用させていただく予定である。
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