2021 Fiscal Year Research-status Report
血液細胞の後天的Y染色体喪失によって心不全が進行するメカニズムの解明
Project/Area Number |
21K20879
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
佐野 宗一 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 特任講師 (80647884)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 血液細胞の後天的Y染色体喪失 / クローン性造血 / 心不全 |
Outline of Annual Research Achievements |
男性では、加齢にともなってY染色体を失った血液細胞が増加することが知られている。この現象は後天的Y染色体喪失(Mosaic loss of chromosome Y:mLOY)と呼ばれ、近年、男性の生命予後や、心不全など様々な加齢性疾患の発症と関連していることが明らかとなった。そこで本研究では、申請者がこれまでに確立したmLOYの動物実験モデルを用いてmLOYが心不全の経過を悪化させる機序を解明することを当初の目的としていた。本年度は以下の計画①を進行中であり、概ね終了している。 計画①(終了):mLOYマウスの心不全モデルでの表現型を解析した。 mLOYマウスの心臓に圧負荷をかけ、心不全の進行の程度を評価した。圧負荷モデルには、循環器研究で広く用いられている大動脈縮窄術(TAC: transverse aortic constriction)を用いた。mLOYマウスとコントロールマウスにTAC手術を行い、心エコーによる経時的な心機能評価(壁厚や左室収縮力の測定)を行った。負荷開始から8週後にマウスを人道的に屠殺し心臓・肺の重量を測定し、さらに得られた検体で各種項目(「現在までの進捗状況」に記載)を解析し、mLOYマウスとコントロールマウスの心不全の進行度を多角的に評価・比較した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は申請者がこれまでに作成した、血液細胞でのみY染色体が欠失したマウス(mLOYマウス)に、圧負荷モデルを作製し、その心臓や血液を採取し、以下の項目の解析(研究計画①)を行った。なお、負荷開始から8週後にマウスを屠殺した。 ・心エコーによる経時的な心機能評価(壁厚や左室収縮力の測定)。結果:mLOYマウスでは野生型マウスに比べて、圧負荷による左室収縮力(FS%)の低下がより顕著であった。壁厚に関しては両群に差は認めなかった。・組織学的解析:形態的変化(HE染色)、心筋細胞のサイズ(WGA染色)、血管内皮細胞(アイソレクチンB4染色)、線維化(ピロシリウスレッド染色)など。結果:圧負荷後のmLOYマウスの心臓では野生型マウスの心臓に比べて、組織学的により強い線維化を認めた。・生化学的解析:血清BNPの測定(ELISA)。結果:mLOYマウスでは、圧負荷後の血清BNPが高値であり、心不全の程度がより強いことを示唆した。・トランスクリプト解析:心不全マーカー(Nppa, Nppb)、線維化マーカー(Col1a1、 Col3a1、Col3a3)、炎症性サイトカイン(Tnf、Il-6、Il-1b)の遺伝子発現量を定量的逆転写PCRにて測定する。結果:mLOYマウスでは各種心不全マーカーや線維化マーカーの遺伝子発現が上昇していた。炎症性サイトカインについては両群で差がなかった。・フローサイトメトリー:心臓に浸潤した免疫細胞(好中球、単球、マクロファージ、T細胞)の数を定量評価する。結果:心臓に浸潤した免疫細胞の数は両群で差がなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策は、当初の計画②を終了することである。 計画②:mLOYにより心不全が悪化するメカニズムを解明する。 ・好中球の除去、あるいはその機能を阻害することで、mLOYマウスの圧負荷モデルでの表現型が改善するかを検証する。好中球の除去は抗Ly6G抗体投与、組織への浸潤阻害はCXCR2阻害剤(SB265610)投与により行う。投与プロトコールは以下の通りである。-抗Ly6G抗体: 500mgを腹腔内投与。TACの前日より隔日投与する。-CXCR2阻害剤: 2mg/kg/dayを腹腔内投与。TACの前日より毎日投与する。いずれも申請者にとって使用経験があり、その作用も検証済みである。 ・Y染色体を維持する好中球と、Y染色体を欠損した好中球の機能を比較する。好中球の一般的な機能解析として、遊走能、貪食能、ROS産性能、ネトーシス形成の評価を行う。また、TACによる圧負荷後の心臓からセルソーティング によって単離した好中球のRNAseqによる遺伝子発現解析を行う。心臓から単離した少量の細胞数(<1,000)でのRNAseqが可能であることは検証済みである。データの解析は申請者がこれまでの研究で用いてきたパイプラインを転用する(Hisat2-StringTie-Ballgownソフトウェア)。両群で発現が異なる遺伝子をリストアップし、パスウェイ解析により、Y染色体の欠損が好中球の機能に及ぼす影響を考察する。
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Causes of Carryover |
必要と考えていた物品を、他の助成金で調達することができたため。 差額分は、計画②に必要な追加試薬の購入に使用する予定である。
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