2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K20942
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
永田 向生 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (10907801)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | Runx2 / Sox9 / 関節軟骨 / ChIP-seq |
Outline of Annual Research Achievements |
我々はこれまでの基礎検討の結果から、成体関節軟骨におけるRunx2の作用は、従来言われてきたように軟骨破壊を促進する因子を誘導するのみならず、「Runx2は炎症反応下の関節軟骨において保護因子Col2a1の転写を誘導する」と仮説を立てるに至った。本年度の成果としては、Col2a1-CreERT2マウスを用いた基礎検討は終了し、Runx2のコンディショナルノックアウトマウスで仮説を示唆する結果を得られた。さらにまた今後のエピゲノム的探索に必要なChIPシーケンスを効率的に行うために、疾患工学センターよりRunx2-FLAGマウスを提供いただいた。このマウスから軟骨細胞を採取し、通常培養およびIL-1βを投与して炎症モデルの軟骨細胞において転写因子Runx2が細胞状態によって転写標的が異なるのか検討した。その結果、軟骨保護因子Col2a1に対して、Runx2が主に3ヶ所の部位でエンハンサーとして働くことを示唆する結果が得られた。興味深いことに、このうち2ヶ所は、Col2a1の最大の誘導因子であるSox9と共有しており、また1ヶ所はRunx2に特異的であることが示唆される結果となった。軟骨細胞におけるSox9のChIP-seqのデータ解析においては、既存の報告(Ohba, et al. Cell Rep 2015)を参照し、Runx2との関連を検討した。Sox9の結合部位には、Runx2が通常状態より炎症反応下でより近傍に結合することがわかった。これは炎症反応下でSox9が減少することと照らし合わせ、Sox9近傍のRunx motifにRunx2が反応することが示唆された。さらに軟骨破壊因子のMmp13については転写開始点の近傍にRunx2の結合部位があることがわかった。しかしMmp13については他の転写因子の誘導についても報告があるため解析には注意を要する必要があると考えている。現在この新規性の報告について、論文投稿準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、Col2a1-CreERT2マウスを用いた基礎検討は終了している。Runx2を成長後に軟骨特異的にヘテロノックアウトすると従来の報告と同様にOAは抑制されるが、Runx2をホモノックアウトしたマウスではOAが進行するといった二層性の作用があること、Runx2ヘテロノックアウトマウス由来の関節軟骨では軟骨破壊促進因子のMmp13の発現が低下するが、Runx2ホモノックアウトマウス由来の関節軟骨では通常培養ではMmp13の発現が低下するのみだが、炎症誘導因子IL-1βを投与すると、軟骨保護因子Col2a1の発現が低下することを突き止めた。Runx2のコンディショナルノックアウトマウスで仮説を示唆する結果を得られたことは順調な進捗といえる。さらにまた今後のエピゲノム的探索に必要なChIPシーケンスを効率的に行うために、疾患工学センターよりRunx2-FLAGマウスを提供いただいた。このマウスから軟骨細胞を採取して、通常培養または炎症誘導因子インターロイキン1-β (IL-1β)を投与して培養する。その後効率の良いFLAG抗体を用いてChIPシーケンスを行い、それぞれの細胞におけるRunx2の結合部位を明らかにした。正常細胞とRunx2のノックアウト細胞との間でRNAシーケンスによる発現量の比較も併せて行い、実際にRunx2が直接的に転写を誘導する遺伝子群を絞り込むことに成功した。現状ではこの2点から仮説の立証は順調に推移していると考え、それを補強する実験を組み込んでいくことを検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、in vivo, in vitroの関節軟骨の層別解析技術に加えて、次世代シーケンサー、質量分析技術など最新の分子生物学的手法を駆使して、成体関節軟骨がRunx2によってどのように維持されているのかを総合的に解明することを目的とする。本研究は我々が培ってきた関節軟骨の解析技術と知見の上に立脚したものであり、我々でしか成し得ないものである。我々は基礎検討において、Runx2のヘテロノックアウトではOAは抑制されるが、関節軟骨全層でのRunx2のノックアウトではOAは促進されること、Runx2のCol2a1誘導作用が通常培養下の軟骨細胞では目立たないが、炎症状態にある関節軟骨を模してIL-1βを投与した軟骨細胞では著明になることを既に示しており、成体関節軟骨におけるRunx2の作用の全貌を解明するために本研究を立案した。 今後はChIPシーケンスによって導き出せた領域でのプロモーター解析を行い、今回得られた結果を検証していく方針である。またRunx2を過剰発現するアデノウイルスを作成して、軟骨細胞におけるRunx2のgain of functionでの影響を検討する。これらは初代軟骨細胞を用いて行う。Runx近傍で作用しうる分子をスクリーニングすると共に、Runx2抗体を用いて共免疫沈降を行い、結合タンパクの組成をLC-MSによって解析し、総合的にRunx2の共役分子を同定する。これらの3つのサブテーマの結果から、Runx2が軟骨の状態に応じてどのような遺伝子の転写を誘導することで成体関節軟骨を維持しているのか、Runx2の作用のうち何が損なわれればOAに繋がるかが明らかになり、関節軟骨の生理と病理の解明に大きく貢献するだろう。
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Causes of Carryover |
本年の実験及び備品購入に全体の支給額の概ね全額を使用した。来年度中に残額を使用予定である。
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[Journal Article] Regulation of osteoarthritis development by ADAM17/Tace in articular cartilage2022
Author(s)
Kaneko T, Horiuchi K, Chijimatsu R, Mori D, Nagata K, Omata Y, Yano F, Inui H, Moro T, Tanaka S, Saito T.
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Journal Title
J Bone Miner Metab
Volume: 40
Pages: 196-207
DOI
Peer Reviewed
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