2021 Fiscal Year Research-status Report
患者M1マクロファージ由来エクソソームを用いた新規卵巣がん核酸療法の樹立
Project/Area Number |
21K20969
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
清水 亜麻 大阪大学, 医学系研究科, 招へい教員 (10910268)
|
Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
Keywords | 卵巣がん / siRNA / エクソソーム / 腹膜播種 / M1マクロファージ |
Outline of Annual Research Achievements |
卵巣がんは本邦において年々増加しており、依然として3分の1の患者が死亡する“致死的な”疾患である。卵巣がんにおける最も頻度の高い転移・再発形式は腹膜播種であり、この病態が進行すると癌性腹膜炎を併発し、患者の全身状態は急速に悪化する。しかしながら、腹膜播種として再発した場合、その治療は極めて難渋し、抗がん剤治療や放射線治療は殆どの場合奏効しない。この問題を解決するには、さらに革新的な新規分子標的治療の導入が必要不可欠であると考える。siRNAなどの核酸医薬は癌遺伝子など特定の遺伝子を選択的かつ強力に抑制できるため、臨床応用できれば卵巣がん治療において有望な選択肢となるが、これらの核酸医薬をそのまま患者に投与しても、体液中に存在するRNAaseによる分解や網内系に取り込みにより、病巣まで効果的に届かず、核酸医薬のがん治療への応用は未だ実現化していない。 そこで、核酸試薬をがん組織に選択的に到達させる新規Carrierとして、細胞が放出する100nm程度の小胞であるエクソソームに着目した。そこで、siRNAのCarrierとして患者由来のエクソソームを用いる新規治療法を考案した。具体的には、まずは患者の大網より繊維芽細胞を初代培養し、エクソソームを回収しそのsiRNA carrierとしての可能性を検証する。さらに将来的な臨床応用の可能性を見越して、末梢血より回収した単球をM1マクロファージに分化させ、それより抽出したエクソソームを抽出することにした。それをsiRNAのCarrierとし、卵巣がんモデルマウスおよび患者癌細胞を移植し作成したPDXモデルマウスに投与、その治療効果を検討する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まずどのsiRNAが有効であるかの検討を行い、がん遺伝子の一つであるMET遺伝子に焦点をあてた。GEPIAでMETが卵巣がんに特異的に高発現していることを確認し、さらに卵巣がん細胞株と不死化卵巣細胞株、卵管上皮細胞株より抽出した蛋白を用いたwestern blotをおこない、c-Metが高発現している細胞株SKOV3ip1, ES=2, CaOV3, OVCAR 3を見出した。そこで、MET siRNAを作成し、卵巣がん細胞株に遺伝子導入することにより、卵巣がんの増殖能、浸潤能が抑制されることを証明した。続いて、婦人科手術の際に摘出した大網より繊維芽細胞を初代培養し、それよりエクソソームを抽出し、さらにエクソソームにMET siRNAを電気穿孔法で封入し、治療用エクソソームを作成した。このエクソソームを卵巣がんモデルマウスに腹腔内投与したところ、治療用エクソソームは腫瘍特異的に取り込まれ、かつ著明な腹膜播種抑制効果が得られることを確認した。 しかしながら、大網由来のエクソソームは実臨床を考えた時に、再発患者から摘出することはできないため、将来的な臨床応用の可能性を考えて、健常人の末梢血よりエクソソームが回収できないかの検討を開始した。具体的には健常人より末梢血30mlを採取し、Lymphocyte Separation Medium (MP Biomedicals) を用いた濃度勾配遠心法により、リンパ球を分離し、それをCD14マグネットビースでSelectionし、単球を培養した。培養した単球を50ng/ml GM-CSFで刺激しM0マクロファージに分化させ、LPS (50ng/ml) とIFNγ (20ng/ml)で24時間刺激することにより、M1マクロファージに分化させることに成功した。今後は作成したM1マクロファージよりエクソソームを回収する予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
上述した通り、健常人の末梢血よりM1マクロファージを作成した。今後はそのマクロファージより、EXO Quickカラムを用いてエクソソームを回収する。一定数のエクソソームが回収できた段階で、マクロファージ由来のエクソソームをマウス卵巣がん細胞株ID-8をC57BL/6マウスに腹腔内移植した卵巣がんモデルに投与し、まずはエクソソーム単体での免疫効果、治療効果を観察する。続いて、エクソソームにMET siRNAを封入して、“治療用エクソソーム”を作成する。続いて、その“治療用エクソソーム”の治療効果を卵巣癌細胞に対するin vitro proliferation assayやBoyden chamberを用いたInvasion assayなどのin vitro実験で検証する。In vitroでの検証ができれば、上述した卵巣がんモデルマウスに投与し、治療効果をマウスの腹水量、腫瘍重量、播種の個数で検討する。ID-8卵巣がんモデルマウスで治療効果が確認できれば、卵巣がん患者より採取した組織を移植するPDXマウスモデルでの治療効果を検討する。卵巣がん組織をマウスovarian bursaに移植する同所移植PDXマウスモデルの作成はすでに開始しており、これまでに3例ですでに作成に成功している。作成したPDXマウスモデルに対して、先行論文に準じて、0.20μgの”治療用エクソソーム”を48時間ごとに3週間、腹腔内投与し、その治療効果を同様に検討する。以上の検討を通じて、卵巣がん腹膜播種に対するエクソソームを用いた核酸治療の可能性を提示したいと考えている。
|