2022 Fiscal Year Annual Research Report
細胞内シグナル伝達経路をターゲットに治癒機転を賦活化する新規根管貼薬剤の開発
Project/Area Number |
21K21083
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
鍵岡 琢実 大阪大学, 歯学部附属病院, 医員 (10909500)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 炭酸リチウム / 根管貼薬剤 / Wntシグナル伝達経路 / 根管治療 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度の研究成果により,根管貼薬した炭酸リチウムから放出されるリチウムイオンは,血中には移行しないことが示され,マイクロCTを用いた病変体積の計測により,炭酸リチウムの根管貼薬が根尖性歯周炎の治癒を促進することが明らかとなった. 令和4年度には,上記の治癒促進作用のメカニズムを明らかにするため,根尖周囲組織の病理組織学的解析を行った.根管貼薬後4週の試料にHE染色を行った結果,炭酸リチウム群の根尖病変の大きさは陰性対照群と比較して小さかった.また,免疫組織染色を行った結果,炭酸リチウム群では根尖病変内に抗炎症作用をもったM2マクロファージの増加を認めたのに対して,陰性対照群では根尖病変内に炎症性マクロファージであるM1マクロファージが認められ,4週の時点でもM2タイプの分布は炭酸リチウム群より少なかった.さらに,炭酸リチウム群では早期から根尖周囲に制御性T細胞の分布がみられ,4週までの間継続して存在していた.in situハイブリダイゼーションを行った結果,炭酸リチウム群ではCol1a1遺伝子の強い発現がみられ,骨芽細胞の分化が誘導されていることがわかった.最後に,貼薬後24時間の試料にWntシグナル伝達経路のターゲット遺伝子産物であるAxin2に対する免疫組織染色を行った結果,炭酸リチウム群では多数の陽性細胞が認められた. 本研究により,炭酸リチウム根管貼薬は,根尖病変の治癒を促進することが示され,血中濃度の経時的測定より生物学的に安全な材料であることが示唆された.そして,炭酸リチウムは,Wnt/β-cateninシグナル伝達経路を活性化することでM1マクロファージの分化を抑制しつつM2マクロファージや制御性 T 細胞の分化を促進して抗炎症状態を導き,一方で,骨芽細胞の分化を誘導することで病変の治癒を促進していることが明らかとなった.
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