2021 Fiscal Year Research-status Report
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21K21308
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
上村 淳 東京大学, 生産技術研究所, 特任助教 (50582847)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 自己複製 / 細胞分裂 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画では、数理解析とデータ解析の両輪で細胞成長・分裂と制御の問題に取り組む予定である。本年度は、主に数理解析による研究に大きな進捗があった。具体的には、化学反応ネットワークのヘッセ幾何構造を考えることで、質量作用の法則や理想気体などを仮定しない一般的な形で化学熱力学の構築を行った。その結果、化学反応系が平衡状態を唯一持つ条件、平衡状態およびそこに緩和する際のエントロピー生成を幾何学的に特徴づけることができた。また、その理論的枠組みを体積が可変な定圧過程に応用することで、化学反応ネットワークが増殖あるいは減衰し続けるのか、平衡状態に至るのかを判別する外部環境の熱力学的条件を明らかにすることができた。さらに化学分子の密度空間において、分子の密度を一定に保ちながら体積増加を実現する定常状態が存在できる領域には熱力学な拘束があることがわかった。これらは、通常の定積過程における熱力学では分子の密度と分子数を同一視できるのに対して、両者を区別しかつ両者の関係性に注意を払いながら理論を構築することで明らかとなったことである。以上の結果を複数の原著論文としてまとめ、現在投稿中である。一方、データ解析については、細胞サイズや分裂時間だけではないマルチモーダルな情報を取り込める細胞増殖動態のデータ解析手法の開発に向けて、細胞成長と強い相関を持つ遺伝子発現の候補について、先行研究の調査と予備的な解析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定通りの計画で進行しており、本年度中に原著論文を複数投稿した。
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Strategy for Future Research Activity |
数理解析による研究については、これまでに構築した理論的枠組みを、細胞内と環境を隔てる膜分子を陽に組み込んだ場合など、より複雑な細胞モデルに応用することで理論を発展・展開させる。また、データ解析について、深層学習を利用した点過程時系列解析手法を基にして、実際にマルチモーダルな情報を取り込める形に拡張させることで、1細胞生理学的時系列データの細胞増殖動態解析手法の開発を目指す。
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Causes of Carryover |
研究実績の概要に記したとおり、本年度は数理解析による研究に大きな進捗があり、その結果を原著論文にまとめることを優先的に行った。そのため、主にデータ解析を行う計画で予定していた計算機を次年度に購入することとした。また、論文投稿を優先したことおよび感染症蔓延により出張が想定よりも行えなかったことで、学会発表等のための旅費を執行しなかった。次年度は、計算機の購入、複数の投稿中論文を出版するための費用に加えて、研究結果を発表するための出張が開始できると想定しており、使用する計画である。
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