2023 Fiscal Year Research-status Report
液滴と共存する固体粒子解析から探る、エアロゾル氷雲形成と気候変動
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21K21342
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
木名瀬 健 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(北極環境変動総合研究センター), ポストドクトラル研究員 (80901165)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2025-03-31
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Keywords | 北極 / 氷晶核 / エアロゾル / バイオエアロゾル / 胞子 / 氷雲 / 気候変動 / 混合雲 |
Outline of Annual Research Achievements |
北極域における気候変動は全球の二倍以上の速さで進んでいることが知られており、その深刻度は高いものの今だ未解明も多く残されている。通常、0~-38℃では雲粒は過冷却液滴として存在するが、氷晶核を含むことにより氷晶を形成する。北極は気温が低いため、過冷却液滴と氷晶が共存する混合雲が形成されやすい。雲中の水・氷バランスは雲の光学特性や物理特性に大きく影響し、気候変動にも強く影響する。しかし、北極の氷晶核の正体自体がまだ明確に特定されておらず、エアロゾルによる氷雲形成過程は、北極気候変動理解における大きな不確定の原因とされている。本研究では特に観測例の少ない北極海上において氷晶核の存在量とその粒子の特定、また吸湿特性の違いについて理解を進めるべく、実験体制の整備と観測・分析を進めた。 本研究に不可欠な環境制御型走査型電子顕微鏡(ESEM)は昨年度より不調となっており、本年度はその修理対応を実施した。最初に異常個所調査を実施し、その後PLA(圧力制限絞り)の追加と実験プロトコル修正を実施し、本研究に使用可能な状態まで復旧することができた。 また、2022年度航海の試料の氷晶核濃度分析と、気象研究所での氷晶核探索実験及び機構でのESEMによる個別粒子解析を実施した。その結果、前年度の試料とは異なり高温域の氷晶核濃度が高いイベント捉えていることがわかり、その期間には陸域から輸送されてきたバイオエアロゾル(菌や胞子、バクテリアなど)が氷晶核として支配的だったことを見つけた。以上の結果について、一件のポスター発表と一件の口頭発表を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究に不可欠なESEMは昨年度より不調となっており、本年度はその修理対応を実施したが、依然明確な原因は特定できていない。しかし仕様よりも低真空での圧力制御が不安定になっていることはメーカー側でも確認でき、異常個所調査から少なくともポールピース周辺やロータリーポンプの異常などではないことが分かった。その過程で、元来取り付けてあるはずのPLA(圧力制限絞り)が外されていることがわかり、新たに取り付けを行って真空度の改善を図った。また環境制御実験用のステージから出るアウトガスの影響も大きく影響していることがわかり、エンジニアと相談しながら実験プロトコル修正を実施した結果、本年度末には使用可能な状態まで復旧することができた。 また、2022年度北極航海の試料については、極地研での氷晶核濃度分析と、気象研究所での氷晶核探索実験、機構でのESEMによる個別粒子解析を実施した。その結果、概要に記した通り陸域からのバイオエアロゾル輸送が、北極海上で特に高温域で機能する氷晶核濃度に強く影響していることを発見した。分析はおおむね完了しており、現在は論文化を進めている。また、個別氷晶核探索実験と個別粒子分析の結果から、バイオエアロゾルがあるのに凍らなかった試料や、多数の海塩粒子が氷晶核として見つかった試料などもあり、これらについては2024年度の解析課題とした。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度の修理対応によりESEMにより吸湿特性解析が実施可能な状態となった。2022年度北極航海の試料には、バイオエアロゾル(氷晶核能が高いと一般的に認識されている)があるのに氷晶核として検出されなかった試料や、氷晶核を多数検出したがそのほぼすべてが海塩粒子だった試料などがあり、これらについては吸湿特性の違いにみられる可能性がある。2024年度にはこれらの特徴的な試料について吸湿特性の解析を実施する予定である。 また、現在までの解析結果から、北極海上に存在する氷晶核に関して陸域から輸送されるバイオエアロゾルの存在が重要であることがわかってきており、この内容について2024年度中に論文化し公表までを目指していく。
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Causes of Carryover |
ESEMの故障状況の改善に時間がかかってしまったことと、コロナ等の影響により2022年度北極航海試料の分析についても予定より遅れてしまったことにより、論文化が遅れているため。2024年度において、吸湿特性の解析実験と国際学会での発表、及び論文出版費用として使用予定である。
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