2021 Fiscal Year Research-status Report
アップコンバージョンナノ光源を用いた有機固体中励起エネルギー移動の超解像計測
Project/Area Number |
21KK0092
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
伊都 将司 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (10372632)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北川 大地 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 講師 (50736527)
五月女 光 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (60758697)
|
Project Period (FY) |
2021-10-07 – 2025-03-31
|
Keywords | 励起エネルギー移動 / 超解像計測 / アップコンバージョンナノ粒子 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は,代表者伊都は分担者五月女と共に,Tmなどの希土類イオンを含むアップコンバージョン(UC)ナノ粒子に対して,波長980nmのCWレーザーを励起源として,単一ナノ粒子のUC発光イメージングを実施し,450-500 nmの可視光領域での発光強度の大きな粒子をスクリーニングした。選別した希土類UCナノ粒子に対して,その集合系を対象とした発光寿命の測定系を五月女を中心に構築し,励起移動のダイナミクスを計測可能なシステムを立ち上げた。 残念ながら,COVID-19の状況から2022年3月に計画していた渡仏しての共同研究は2022年度以降に延期したが,上記実験結果に関してフランス側共同研究者のグループとWeb会議を実施し,得られた測定結果を合理的に解釈し,その結果に基づき本研究に適した希土類UCナノ粒子を選別した。また,フランス側の研究グループにおいても,励起光強度依存性や発光のダイナミクス計測など,本研究遂行に必要な測定系の評価と種々の希土類UCナノ粒子の評価を実施し,2022年度以降の共同研究に対する測定系の準備を進めた。 伊都と分担者北川は,単一ナノ粒子計測が可能な程度の少数の希土類UCナノ粒子を含む共役系色素(ペリレンジイミド誘導体:PDI)のアモルファス固体を調製し,そのサンプルに対して,伊都と五月女は近赤外レーザー光照射によりUCナノ粒子周囲のPDIが発光することを単一粒子レベルで観測(イメージング)することに成功し,ナノ局在化励起と励起位置の高精度決定が可能であることを実証した。また,単一粒子の発光スポットを分光可能なイメージング分光装置を立ち上げ,上記のUCナノ粒子周囲のPDIの発光スペクトルを粒子ごとに測定し,UCナノ粒子の選択励起によりPDIの発光が観測される,すなわちPDIの励起状態が生成されることを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究実績概要で述べたとおり,初年度は発光イメージング・分光装置の構築と性能評価,本研究で励起源として用いるアップコンバージョン(UC)ナノ粒子の発光特性評価と研究に用いる粒子の選定,エネルギー移動を示す固体の参照系として用いる共役系化合物(ペリレンジイミド誘導体)固体フィルムの準備などに関して研究を進めた。本研究の構想通りに近赤外レーザー光照下で,多光子吸収によるアップコンバージョン発光を単一ナノ粒子レベルで測定することに成功し,画像解析から,ナノメートルスケールに局在化した励起位置をナノ精度で決定できることを示した。さらに,有機色素固定の参照系に埋め込んだUCナノ粒子において,近赤外レーザー光によるUCナノ粒子の多光子励起によって,ナノ粒子周囲の有機色素からの発光を観測することにも成功し,ナノ局在励起と周囲への励起エネルギー移動を示唆する成果を得た。この成果は,当初計画を上回る進捗であった。 一方で,当初計画においては2022年3月にフランスに渡航し現地の共同研究グループとの共同実験を実施する予定であったが,COVID-19の感染・流行状況などを鑑みて,渡仏を延期することとした。しかし全体としては,当初計画より研究が進んでいると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
上述のように,初年度は希土類UCナノ粒子によるナノスケール局在化励起と,励起位置のナノ精度決定を実現した。今後は得られた知見に基づき,希土類UCナノ粒子を用いた研究を進める。分担者伊藤は,UCナノ粒子及びエネルギーアクセプター分子を内包した有機色素固体膜を調製し,膜の内部構造(結晶相/非晶質など)を評価する。その試料に対して,伊都・五月女・伊藤はフランス側共同研究グループと協力し,UCナノ粒子選択励起下でのUCナノ粒子,ホスト固体,アクセプター分子の発光挙動を顕微イメージング・分光計測し,系の励起ダイナミクスを測定するとともに,エネルギー移動距離の測定に挑戦する。 希土類UCナノ粒子を用いた研究と並行して,より明るいナノ励起源として,三重項―三重項消滅(TTA)によるUC発光を示すナノ粒子(TTA-UCナノ粒子)系のスクリーニングと発光特性評価を行う。これまで,励起状態TTAによりS1状態を生成し蛍光を示す分子(エミッター)に対して,その三重項を高濃度に効率よく生成するために増感剤からの三重項エネルギー移動を使う増感剤-エミッター混合固体系において,赤-近赤外励起によりより短波長の可視光発光を示す固体混合系が種々報告されている。代表者伊都と分担者北川・伊藤は協力して,種々の増感剤―発光剤の組み合わせに対して,乾固膜を作製しその発光特性を評価し,高い発光収率と目的に則した発光波長を示す系を選別する。次いで,レーザーアブレーション法や再沈殿,ボールミルなどによる機械的な粉砕法などを用いて,TTA-UCナノ粒子作製を試みる。得られたTTA-UC粒子に対して,伊都・五月女及びフランス側共同研究者は粒子集合系及び単一粒子を対象として種々の分光計測を実施し,その発光特性を評価する。2022年度は,2022年8-9月ごろ,及び2023年3月ごろ渡仏し現地での共同研究を予定している。
|
Causes of Carryover |
2021年度末にフランス側共同研究機関に出向き現地で共同研究を実施する計画であったが,COVID-19の状況を鑑み,延期することとしたため。この経費(旅費)は,2022年度以降に使用する。
|
Research Products
(40 results)