2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
21KK0127
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
茂木 文夫 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 教授 (10360653)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西村 有香子 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 講師 (90360619)
木戸秋 悟 九州大学, 先導物質化学研究所, 教授 (10336018)
柴田 達夫 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, チームリーダー (10359888)
多羅間 充輔 九州大学, 理学研究院, 助教 (90756834)
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Project Period (FY) |
2021-10-07 – 2025-03-31
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Keywords | 細胞極性 / 微小管 / 非対称分裂 / 細胞移動 / 接着斑 / アクチン骨格 / PAR複合体 |
Outline of Annual Research Achievements |
生体内の細胞は、その多くが非対称な極性パターンを獲得する。近年の研究から、この細胞極性の確立は細胞内で発生する力刺激を必要とすることが示されたが、この過程で細胞が力刺激を感知・応答する仕組みは未だに不明な点が多い。本研究では、細胞骨格である「微小管」のメカニクスを中心とするメカノトランスダクション機構が、細胞スケールの極性パターンを誘導する分子機構を包括的に理解することを目標とする。光遺伝学手法と細胞外基質の微細加工を利用した微小管の人為的操作技術を確立し、高速高解像度ライブイメージングと画像解析・数理解析を融合した学際的研究戦略によって、細胞極性化における微小管メカニクスの生理的意義を解明する。
本提案研究では、線虫初期胚とヒト培養細胞を対象とし、細胞内微小管の構造と機能を人為操作する実験手法を確立し、この微小管メカニクスの変動が細胞極性パターンの誘導と維持に及ぼす影響を高解像度ライブイメージングにより解析する。線虫初期胚では、細胞内温度変化によって微小管、微小管形成中心、または微小管モーターの機能を操作する株を作成し、人為的な温度変化誘導と同時にライブイメージングを可能な実験系を確立した。ヒト培養細胞では、申請者らが解明したメカノトランスダクション構造である細胞接着斑と微小管との相互作用を司る分子群の相互作用を、化学遺伝学及び光遺伝学的手法で操作する実験系の開発を進めている。更に、国立シンガポール大学との共同研究により細胞外基質の機械的性質を微細加工することで、細胞接着斑のメカノトランスダクションパターンを人為操作する新規実験系を開発している。現在はこれらの細胞操作手法と、微小管の高速高解像度ライブイメージング、および画像解析・数理解析を融合したアプローチを組み合わせて、細胞極性化における微小管メカニクスの生理的意義の解明を目指している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)線虫には、微小管と細胞極性の動態を可視化するための遺伝子組換えをゲノム編集によって導入すると同時に、細胞内温度変化によって微小管、微小管形成中心、中心子の機能を操作するための超高速反応性温度感受性遺伝子変異を導入した。上記の線虫株から単離した初期胚を、光温度顕微鏡システムを利用して胚内の温度を15度(許容温度)から26度(非許容温度)へ変化させると、生殖細胞前駆体においては細胞極性の前後軸方向性が形成・維持できなくなった。更に、生殖細胞前駆体の極性化は、隣接する細胞との物理的接触を必要とすることも示された。これらの結果は、生殖細胞前駆体では「細胞自律的かつ微小管依存的な極性化」と「細胞非自律的な隣接細胞からの刺激」が共同することで、極性方向の形成と維持が促進されるというモデルを支持する。
2)ヒト網膜上皮細胞では、接着斑と微小管の相互作用を操作する化学遺伝学手法と光遺伝学的手法を構築した。微小管結合因子GEF-H1と微小管の結合は、細胞内RhoAの活性化状態に依存していること、更に細胞膜の伸展と退縮サイクルに依存していることが示された。これらの結果は、GEF-H1の微小管結合性(すなわちGEF-H1のRhoAに対するGEF活性)の時空間パターンは、微小管―接着斑―RhoA―アクチン骨格ー細胞膜の伸展・退縮のクロストークによって制御される可能性を示唆している。現在は、細胞外基質の機械的性質を微細加工する技術を構築し、この手法を高速高解像度ライブイメージングと組み合わせる実験条件を検討している。
3)当該年度は、代表者の茂木と分担者の西村・多羅間が国立シンガポール大学を訪問し、光温度遺伝学実験系・光遺伝学実験・細胞外基質の微細加工手法の共同研究実験を行った。シンガポールの共同研究者とは定期的にメールとオンラインを活用して、2024年度の実験方針を議論している。
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Strategy for Future Research Activity |
1)線虫胚の生殖細胞前駆体で「細胞自律的かつ微小管依存的な極性化」と「細胞非自律的な隣接細胞からの刺激」が共同することで細胞極性が制御されるというモデルを検証するために、人為的な細胞内温度変化とUVレーザーによる顕微手術を組み合わせて、微小管および細胞間相互作用の時空間パターンを人為操作する。細胞内温度変化実験では、前述した微小管の機能阻害に加えて、アクチン骨格因子・PAR複合体・分裂装置から作られるミッドボディの機能を阻害する実験も試みる。更に細胞内構造を局所的に破壊するUVレーザーによる顕微手術を利用して(茂木・遠山の共同研究)、微小管と細胞表層にかかる張力または応力の計測を行い、その定量的解析を遂行する(柴田・多羅間)。
2)GEF-H1は「微小管の機械的性質を認識するメカノセンサー」として機能すると示唆されるため、接着斑連結の微小管に掛かる力を測定し、GEF-H1が微小管の機械的性質によって制御されるかを検証する。微小管にかかる力刺激は、UVレーザーによる顕微手術(西村・遠山の共同研究)と微小管フィラメントの形態・曲率の画像解析から数理モデルを用いて推定する(柴田・多羅間)。細胞内の微小管繊維に対するGEF-H1の結合親和性を「GEF-H1動態の一分子解析」(西村・Bershadskyとの共同研究)によって定量解析する。また、細胞外基質の微細加工を応用してdurotaxisを誘導する系(西村・木戸秋・国立シンガポール大学との共同研究)を利用し、微小管による接着斑制御のメカノ環境センシングにおける役割を検証する。
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Causes of Carryover |
コロナ感染症対策による事情により、国際共同研究先の国立シンガポール大学での実験計画を、2023年度と2024年度に集中させたことによる理由。2023年度に引き続き、2024年度も西村・茂木・多羅間が複数回渡航し、国立シンガポール大学で共同研究実験を行う予定。
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Research Products
(7 results)