2022 Fiscal Year Research-status Report
植物性染色体の誕生と性決定システムの進化を解明する日英共同研究
Project/Area Number |
21KK0128
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
風間 裕介 福井県立大学, 生物資源学部, 教授 (80442945)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西嶋 遼 福井県立大学, 生物資源学部, 助教 (00841561)
大谷 真広 新潟大学, 自然科学系, 助教 (30768841)
水多 陽子 名古屋大学, 高等研究院(WPI), 特任助教 (70645142)
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Project Period (FY) |
2021-10-07 – 2025-03-31
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Keywords | 性染色体 / 雌雄異株植物 / ヒロハノマンテマ / 性決定 |
Outline of Annual Research Achievements |
ナデシコ科雌雄異株植物ヒロハノマンテマ(Silene latifolia)のY染色体のほとんどはX染色体と組換えを起こさずに変異を蓄積し、X染色体の1.5倍(570 Mb)に巨大化している。これは、キウイフルーツなどのXY染色体が同じサイズである性染色体よりも分化が進んだ状態といえる。我々は、このY染色体上に存在する性決定遺伝子候補であり、めしべの発達を抑制すると考えられる遺伝子(GSFY)を同定し、そのパラログがX染色体上にも存在する(GSFXがある)ことを明らかにした。GSFXはRNA-seqのデータからも検出されたため、発現していると考えられる。本研究では、両遺伝子について、分子生物学的な遺伝子機能解析と進化遺伝学解析を行い、どのような突然変異が生じて性決定遺伝子が誕生したのかを明らかにする。 本年度は、GSFY遺伝子およびGSFX遺伝子の機能解析を行った。 アミノ酸配列の相同性比較からは、GSFX遺伝子は機能喪失していることが推定された。GSFXとGSFYのそれぞれをnativeプロモーターに連結しシロイヌナズナやトレニアに形質転換したところ、GSFYの形質転体は雌蕊の発達不全が見られたのに対し、GSFXの形質転換体では雌蕊の発達に影響は見られなかった。 形質転換系の構築に向け、カルス誘導法の検討、茎頂へのガラスキャピラリーを用いたアグロバクテリウム感染法等などの検討を行った。またOxford大と連携し現地において野生種の収集を行った。西イングランドからウェールズを中心に17系統、日本の北海道系統、研究室で保管するK系統において、胚軸、葉、茎からカルス誘導を行ったところ、K系統では胚軸からのカルス誘導が生じやすく、北海道系統では葉や茎からのカルス誘導が生じやすいことがわかった。現在再分化系の開発を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
両遺伝子の機能解析をシロイヌナズナとトレニアで行い、GSFYは機能型でGSFXが機能不全型であることを示唆するデータが得られた。また、GSFY及びGSFXはシロイヌナズナのペプチドホルモンであるCLV3のホモログであるため、CLV3ペプチドの解析手法に則って、それぞれの遺伝子にコードされる12アミノ酸残基からなるペプチドを人工合成することでも活性の評価を行うことができた。シロイヌナズナやヒロハノマンテマの茎頂にこれらの合成ペプチドを処理する実験においても、GSFYが機能型でGSFXが機能不全型である結果が得られた。さらに、GSFX遺伝子とGSFY遺伝子の同義置換率の計算によりこれらの遺伝子が分岐した年代を推定したところ、780万年ー1500万年前であり、これはY染色体が誕生した年代と一致することがわかった。以上の結果から、おそらく、GSFXの機能不全によりGSFYのみがY染色体になったことで性決定遺伝子が誕生したものと考えられた。 遺伝資源の収集についてもOxford大学と連携して現地調査を行い、予定通り17系統の収集を行った。これらのカルス誘導性の評価も行い、系統ごとに誘導性が異なることも明らかにできた。
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Strategy for Future Research Activity |
GSFYはGSFXが機能不全となる前と同様の機能を持つのであろうか、それともY染色体上において雌蕊の発達抑制により特化した機能を持つようになったのであろうか。この問いに迫るため、GSFX及びGSFYの発現領域を詳細に解析し、性決定遺伝子が誕生した際にY染色体コピーに特有のプロモーターの変化が生じたかどうかを検証する。有用遺伝資源の獲得を目的とした系統の収集については、反応性の良かった北海道系統の収集を行うことも検討している。 また、今年度は、日本遺伝学会第95回大会にてワークショップを主催する。共同研究者であるOxford大学のFilatov教授を招聘して本ワークショップにて講演していただく。本課題の代表者や分担者だけでなく、我が国の性染色体研究者と議論していただき、学問分野の動向を共有し本課題の研究推進にも役立てたいと考えている。
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Causes of Carryover |
北海道系統が有望であることが判明したため、次年度に北海道系統の収集及び整備を目的として繰り越した。Filatov教授の招聘に係る費用が当初予定よりも高く見積もられるため、実行できない可能性もあるが、可能であれば北海道系統の収集を進めたい。
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