2022 Fiscal Year Research-status Report
生体機能チップを用いた腸管感染症における病原体-ヒト相互作用の解明
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21KK0135
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
野崎 智義 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (60198588)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡邊 菜月 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 特任研究員 (00883323)
サントス ハルベルト・ヒメネス 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (90793779)
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Project Period (FY) |
2021-10-07 – 2024-03-31
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Keywords | 感染症 / 大腸 / 原虫 / 赤痢アメーバ / 宿主応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒト臓器・組織を忠実に再現する生体機能チップと高解像度ライブイメージング、シングルセルトランスクリプトーム解析を用いて、感染症における病原体と宿主の相互作用の分子基盤を高空間・時間分解能をもって解明することを大きな目的として研究を実施した。具体的には、赤痢アメーバ原虫のヒト大腸感染における相互作用(組織侵入と免疫回避)で原虫側病原機構(貪食や小胞輸送など)の関与を精密に理解することを目的とした。貪食と小胞輸送は赤痢アメーバの病原機構、感染病態・病理に深く関わる機構である。ヒト大腸感染においてこれらの生物機能がどのように機能しているのか、時空間的にどう制御されているのかをヒト感染で実際に観察することは困難であったため、本研究では、インビトロで示唆された重要な病原機構・因子がインビボで実際に機能しているのかを生体機能チップと高解像度ライブイメージング、シングルセルトランスクリプトーム解析を用いて実証する。本年度はインビボを忠実に再現した多様な細胞群で3次元構築されたヒトの生体機能チップを確立した。これにより次年度以降、赤痢アメーバの病害過程、特に大腸上皮細胞への接着、貪食、上皮細胞の破壊、陰窩・粘膜固有層への侵入を原虫側の病原機構・分子の役割、ヒト側の組織の免疫応答、両者の遺伝子発現制御の観点から明らかにするための準備が完了した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
いくつかの重要な成果を挙げた。第一に、Colon-on-a-chipを確立した。大腸癌切除検体から陰窩を分離し、細胞をコラーゲンを基盤としたトランスウェルインサートに添加し、モノレーヤーとcolon-on-a-chipを作製した。次に幹細胞を吸収性結腸細胞と粘液産生性杯細胞へと分化させ、極性をもったcolon-on-a-chipを作製した。作製されたcolon-on-a-chipは多光子共焦点レーザー顕微鏡を用いて、細胞種由来の抗原に対する特異抗体を用いて、細胞の極性等を確認した。第二に、赤痢アメーバ感染におけるorgan-on-a-chipの宿主応答の解析:赤痢アメーバ野生型を用いてヒトorgan-on-a-chipへの添加に伴うヒト細胞の障害を観察することに成功した。赤痢アメーバが時間とともに極性を持ったcolon-on-a-chip上の陰窩に侵入することが時間依存的に観察された。次年度以降に、ヒト組織から分泌される炎症性サイトカインを計測したり、病理組織切片を作製し、赤痢アメーバの組織侵入を定量的に評価するための準備が完了した。第三に、病原体鍵因子のライブイメージング解析に使用する赤痢アメーバ形質転換体(GFPまたはHAに融合したCP-A5, tetraspanin, EHD1などの発現株)の作成を完了した。今後組織侵入におけるこれら鍵因子の動態、侵入部位の解明、CP-A5の分泌のタイミングの同定などへの準備が完了した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに確立したヒト大腸幹細胞由来のcolon-on-chipを用いて、ヒト大腸と赤痢アメーバの相互作用に関する研究を展開したい。まず、赤痢アメーバとの共培養によって分泌される炎症性サイトカインの産生を計測する。同時に、病理組織切片解析により赤痢アメーバの組織侵入を定量的に評価する。またシングルセルRNA-seq解析により、ヒトcolon-on-a-chipと赤痢アメーバ両者の遺伝子発現プロファイルを明らかにする。次に、これまで作成された病原性鍵因子のエピトープ付加体を発現した赤痢アメーバ株を用いて、大腸組織侵入に伴うこれらの分子の細胞内動態をライブイメージングで詳細に追跡する。さらに鍵因子の発現抑圧株を用いて、組織侵入を観察することにより、それぞれの分子が、粘液層の侵入・陰窩への侵入・上皮細胞破壊・粘膜下層の破壊のいずれのインビボ感染過程に機能しているかを明らかにする。更に発現抑制株によりチャレンジされたcolon-on-a-chipで炎症性サイトカインの産生、遺伝子発現プロファイルに変化があるかを解析する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症により、予定していた渡航ができなくなり、それに伴い試薬も購入しなかったため。次年度に持ち越す。
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Research Products
(8 results)