2012 Fiscal Year Annual Research Report
d-電子複合系の理論化学:新しい高精度大規模計算法による微視的理解と予測
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22000009
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
榊 茂好 京都大学, 福井謙一記念研究センター, 研究員 (20094013)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
永瀬 茂 京都大学, 福井謙一記念研究センター, 研究員 (30134901)
中尾 嘉秀 京都大学, 福井謙一記念研究センター, 准教授 (40362462)
江原 正博 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設), その他部局等, 教授 (80260149)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 高精度大規模電子状態計算法 / d電子系 / 遷移金属化合物 / 触媒作用 / 分子機能 / 励起状態 / 多核遷移金属錯体 / 超原子価結合 |
Research Abstract |
本研究では遷移金属元素を主要部分として含むd電子複合系の高精度大規模計算法を開発し、それを用いて、d電子が主役となる複合系の構造、結合性、分子物性、反応性、触媒作用などを電子状態に基づいて解明し、理論先導的予測を行おうとするものである。理論計算法の開発として、大規模系の高精度計算を可能とする配位子有効ポテンシャル法や新しいモンテカルド法を開発してきたが、更に、MP2, MP3レベルでの分散相互作用の分子対2段階評価法、分極の大きな大規模系の溶媒効果を正しく見積もる3D-RISM法での長距離・短距離クーロン相互作用の高精度近似法の開発、QM/MM法に基づく分子性結晶の高精度計算法を開発した。遷移金属と高周期典型元素を持つd電子複合系に関する理論研究として、白金ジシリル錯体が配位子場理論から予測される構造とは大きく異なる理由を電子状態に基づいて解明、遷移金属ゲルミレン錯体の興味ある反応性、鉄ゲルミル錯体の構造と結合性を解明した。また、二核逆サンドイッチ金属錯体の複雑な電子状態を3d金属および4d金属で比較し、興味ある相違をd軌道の広がりの観点から解明した。遷移金属錯体の対称禁制d-d吸収帯の振動子強度の、振動を考慮した評価法を開発、対称性の高い金属錯体に応用した。反応については、3D-RISM-MP2法を用いて抗がん剤シスプラチンの加水分解過程を、溶媒和を精密に取り込んで検討し、詳細な描像を明らかにした。遷移金属化合物によるσ結合活性化は触媒反応で重要であるが、これまで、分子論的理解が全くなされていなかった、ルテニウム錯体によるシクロプロペンのC-C結合切断反応のCAS-VB研究を行い、反応の描像を微視的に解明すると共に、原子価状態への昇位エネルギーの重要性を明らかにした。遷移金属を内包するフラーレンの化学修飾による内包金属の動的制御および機能化を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
遷移金属元素や高周期典型元素を含む大規模系の高精度電子状態計算法として、MOF( metall-organic-framework)への気体分子吸蔵を高精度に計算する方法の開発を主な課題の一つに挙げていたが、既存のONIOM法に、本研究で開発した分散相互作用の分子対2段階評価法を組み合わせた方法を開発できた。また、サイズが大きく、分極性の高い遷移金属錯体の溶媒和を高精度に評価する方法は、ごく限られていたが、本研究で、優れた方法を開発出来た。これまで、ほとんど研究が行われていなかった分子性結晶の高精度計算法を開発できた。このように、d電子複合系で必要であった理論計算法を次々と開発でき、応用研究でもこれまで見解明の問題について、研究を展開し、成果を上げ、d電子複合系の特徴を解明しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
順調に研究を進めてきている。残りの研究期間は2年間である。これまでに開発して来た理論的方法を更に、高精度化するために注力する。一つの方向性は、分子結晶や無限系での分子科学計算の高精度化とその応用である。具体的にはMOFなどの分子論的理解を可能とするアプローチ法を確立したい。d電子複合系は溶媒和が重要な場合が多い。その溶媒和を高度に考慮するとともに、その方法を用いて、溶媒和が強く、従来の方法では取り組めなかった研究対象にアプローチする。遷移金属と高周期典型元素が組み合わさったd電子複合系や多核金属錯体は特に、分子物性や構造が電子論的にも、結合論的にも興味が深い。それらの系に対して、従来の取り組みを進めると共に、遷移金属元素と高周期典型元素の比較、特徴づけなどを通して、普遍的な理解と予測を可能とするような分子理論研究を行う。遷移金属とフラーレンなどのように巨大炭素化合物の構造、電子状態、物性の関連は、今日でも未解明の問題であるが、このような系に対して電子状態計算に基づいた解明を行う。
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Research Products
(34 results)