2012 Fiscal Year Annual Research Report
環境ストレスによるヌクレオチドプールの恒常性破綻の分子病態と制御機構の解明
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22221004
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
中別府 雄作 九州大学, 生体防御医学研究所, 教授 (30180350)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
作見 邦彦 九州大学, 生体防御医学研究所, 准教授 (50211933)
土本 大介 九州大学, 生体防御医学研究所, 助教 (70363348)
盛 子敬 九州大学, 学内共同利用施設等, 助教 (90467895)
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Project Period (FY) |
2010-05-31 – 2015-03-31
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Keywords | ヌクレオチドプール / 環境ストレス / 化学物質 / 放射線 / 病態モデル / 酸化ヌクレオチド / 脱アミノ化ヌクレオチド / DNA修復 |
Research Abstract |
本研究では,環境放射線と生体内環境ストレスの相互作用を環境ストレスとしてとらえ,放射線によるヌクレオチドプールの恒常性破綻の生体への影響と応答を解明し,ヌクレオチドプールを介した放射線生物影響の概念と制御機構を明らかにすることを目指し,以下の成果を上げた。 ①放射線を照射された細胞が長期に渡って生成し続ける活性酸素が放射線のBystander effectsのメディエータの主体であることを明らかにした。 ②放射線のBystander effectsのメディエータとしては,放射線を照射された細胞が長期に渡って生成し続ける活性酸素が重要であるが,その活性酸素の標的として細胞外ATPとその分解産物のAdoが重要であることが明らかになった。Adoの酸化体である2-OH-adenosineは細胞外から作用して細胞増殖阻害とアポトーシスを引き起こすが,そのメカニズムとして2-OH-ATP認識タンパク質の候補を同定し,MAPKカスケードの活性化の関与を明らかにした。 ③放射線のBystander effectsのメディエータとして注目している2-OH-Adoが転写因子FOSB等の発現誘導及び活性化を制御することが明らかになった。FOSBについては様々な脳ストレスにより発現が誘導され,脳ストレス応答の重要な制御因子であることを明らかにした。 ④アルツハイマー病の剖検脳における遺伝子発現プロファイルがインスリン不応答性とミトコンドリア機能障害を示すものであったことから,アミロイドβの蓄積に始まるアルツハイマー病特有の分子病態が酸化ストレスの増悪をもたらすものであることを明らかにした。さらに,OGG1の欠損でもメタボリックシンドロームが加速されることを明らかにし,ヌクレオチドプールの恒常性の破綻がアルツハイマー病をはじめとする認知症の進行に重要な位置を占めることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
① 活性酸素によるDNA損傷の起源としては従来DNA中の塩基が直接酸化されて生じると信じられていたが,我々のMTH1欠損細胞やマウス,さらにhMTH1トランスジェニックマウス等の解析から,ヌクレオチドプール中のdGTPなどの酸化で生じた酸化ヌクレオチドがDNA複製に際して取り込まれたものが,主要な起源であることが明らかになり,新たなDNA損傷の起源の概念を確立した。 ② 放射線の生物影響についても従来DNAへの直接作用,すなわちDNA鎖の切断が主要と信じられていた。しかしながら,近年世界中でBystander effectsなどDNAへの直接作用では説明できない放射線の生物影響の重要性が指摘されている。我々は,放射線の間接効果の1つとして水の放射線分解で生成される活性酸素がDNAもしくはヌクレオチドに作用すると仮定して当該研究を進めてきたが,放射線の間接効果で生成される活性酸素がDNAよりもヌクレオチドに対して25倍から100倍に達する高い効率で作用することが明らかになった。さらに,放射線照射を受けた動物の胸腺由来のT細胞は照射後10週以上経ってもBystander effectsを発揮するが,その主要なメディエータが活性酸素であることが判明し,放射線の主要な生物効果は水の放射線分解で生成される活性酸素と照射された細胞が何らかのメカニズムで長期間生成し続ける活性酸素に由来することが明らかになった。 ③ 我々の研究から,活性酸素による脳神経障害の原因として酸化ヌクレオチドの関与が大きいことが明らかになった。神経細胞のミトコンドリアゲノムとミクログリアの核ゲノムへの酸化ヌクレオチドの取り込みとDNA修復系に依存した細胞死プログラムの活性化が神経変性の主要なメカニズムであることが証明されたことから,放射線療法による脳機能障害のメカニズムの解明へも大きな貢献が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの進捗状況に基づき転写因子FOSBに関する解析を追加して,以下の研究項目について相互の結果を踏まえて研究を実施する。 ① ピリミジンヌクレオチドへの試験管内放射線照射により生成される修飾ヌクレオチドを分離同定し,それぞれの絶対定量法を確立する。② 放射線照射によりヌクレオチドプール,DNAおよびRNA中に蓄積する修飾ヌクレオチド及び細胞外に放出・分泌される修飾ヌクレオチドの同定と定量を行う。③ 修飾ヌクレオチド等の培地添加による細胞レベルでの生物効果を解析する。④ 修飾ピリミジンヌクレオチドの分解酵素等を同定し,生化学的な機能解析を進める。⑤ 修飾ヌクレオチドの下流で作用するタンパク質としてヌクレオチド代謝系,シグナル伝達系,転写因子FOSBの機能に注目して修飾ヌクレオチドの生物学的作用機序を解析する。⑥ DNA修復酵素およびRNA中の修飾ヌクレオチド切断酵素の生化学,細胞生物学的な機能解析を進める。⑦ 修飾ヌクレオチド分解酵素の欠損によるヌクレオチドプール恒常性の破綻が環境ストレスと放射線生物影響に及ぼす効果を解析する。⑧ 修飾ヌクレオチド分解酵素の過剰発現細胞とマウスを用い,環境ストレスと放射線の生物影響を解析する。⑨ DNA修復酵素の欠損下での環境ストレスと放射線生物影響を解析する。⑩ RNA中の修飾ヌクレオチドの認識・分解等に関与する酵素の欠損マウスと細胞を用い,環境ストレスと放射線の生物影響を解析する。⑪ MTH1/OGG1/MUTYH三重欠損マウスの経世代変異をエクソーム解析により同定する。⑫ アルツハイマー病モデルマウスへの放射線照射による病態の抑制と促進,遺伝子発現プロフィールの変化を解析する。各種病態モデルマウスに修飾ヌクレオチド分解酵素やDNA修復酵素の欠損および過剰発現系を導入し,環境ストレスと放射線障害の促進および抑制効果を解析する。
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[Journal Article] Nature of nontargeted radiation effects observed during fractionated irradiation-induced thymic lymphomagenesis in mice.2013
Author(s)
suji, H., Ishii-Ohba, H., Shiomi, T., Shiomi, N., Katsube, T., Mori, M., Nenoi, M., Ohno, M., Yoshimura, D., Oka, S., Nakabeppu, Y., Tatsumi, K., Muto, M., and Sado, T.
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Journal Title
J Radiat Res
Volume: 54
Pages: 453-466
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Altered expression of diabetes-related genes in Alzheimer’s disease brains: The Hisayama study2013
Author(s)
Hokama, M., S. Oka, J. Leon, T. Ninomiya, H. Honda, K. Sasaki, T. Iwaki, T. Ohara, T. Sasaki, F.M. LaFerla, Y. Kiyohara, and Y. Nakabeppu.
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Journal Title
Cereb Cortex
Volume: 23
Pages: in press
Peer Reviewed
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[Journal Article] fosB-Null Mice Display Impaired Adult Hippocampal Neurogenesis and Spontaneous Epilepsy with Depressive Behavior.2013
Author(s)
Yutsudo N, Kamada T, Kajitani K, Nomaru H, Katogi A, Ohnishi YH, Ohnishi YN, Takase KI, Sakumi K, Shigeto H, Nakabeppu Y.
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Journal Title
Neuropsychopharmacology
Volume: 38
Pages: 895-906
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Crystallization and preliminary X-ray analysis of human MTH1 with a homogeneous N-terminus.2013
Author(s)
Koga Y, Inazato M, Nakamura T, Hashikawa C, Chirifu M, Michi A, Yamashita T, Toma S, Kuniyasu A, Ikemizu S, Nakabeppu Y, Yamagata Y.
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Journal Title
Acta Crystallogr Sect F Struct Biol Cryst Commun
Volume: 69(Pt 1)
Pages: 45-48
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] MutT homolog-1 attenuates oxidative DNA damage and delays photoreceptor cell death in inherited retinal degeneration.2012
Author(s)
Murakami Y, Ikeda Y, Yoshida N, Notomi S, Hisatomi T, Oka S, De Luca G, Yonemitsu Y, Bignami M, Nakabeppu Y, Ishibashi T.
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Journal Title
Am J Pathol
Volume: 181
Pages: 1378-1386
DOI
Peer Reviewed
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