2012 Fiscal Year Annual Research Report
途上国における貧困削減と制度・市場・政策:比較経済発展論の試み
Project/Area Number |
22223003
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
黒崎 卓 一橋大学, 経済研究所, 教授 (90293159)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高崎 善人 筑波大学, 大学院人文社会科学研究科, 教授 (00334029)
櫻井 武司 一橋大学, 経済研究所, 教授 (40343769)
北村 行伸 一橋大学, 経済研究所, 教授 (70313442)
神門 善久 明治学院大学, 経済学部, 教授 (80195924)
岡崎 哲二 東京大学, 大学院経済学研究科, 教授 (90183029)
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Project Period (FY) |
2010-05-31 – 2015-03-31
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Keywords | 経済発展 / 貧困削減 / 比較制度分析 / 国際情報交換 / 多国籍 |
Research Abstract |
開発途上国における貧困削減・経済開発のために有益な経済発展論・開発戦略の方向性を示すことを目的とした本研究の第3年次として、平成24年度には、経済発展データベース(DB)の整備・分析、研究分担者・連携研究者・内外の研究協力者との共同研究を進め、国際ワークショップを開催した。概ね予定した研究成果を得ることができた。 DB整備は、アジア・アフリカでのオリジナルな調査に基づくDBと、歴史的データや既存統計のDB化の両面で顕著に進展した。アジアに関しては、インドで天候保険に関する家計調査と社会実験実施の結果をDB化し、パキスタンでの住民参加開発に関する第3次調査を実施した。アフリカに関しては、ザンビアおよびブルキナファソにおいてこれまでの調査家計の追跡調査を実施し、ザンビアでは加えて天候保険販売実験も行った。途上国比較家計調査の一貫としてナイジェリアでの本調査を実施し、フィリピンにおいて以前に調査された村落の再調査を実施した。他方歴史データのDB化作業として、アジア諸国の教育行政に関する資料を収集しDB化する作業をフィリピンに続いてタイに拡張した。戦前日本については、農家経済調査および法制度整備に関するDB化と分析が進められた。以上のDBを用いた研究成果をディスカッション・ペーパーとして公表すると同時、ウェブにてDBの紹介を開始した。 プロジェクトメンバーによる報告を中心とした全体会議を6月に開き、これまでの研究成果の共有と分析枠組統合に向けた議論を行った上で、3月に国際ワークショップ(WS)を開催した。国際WSは、内外の関連研究者や開発の現場に関わる約50名の参加者に対し、プロジェクトの中間成果を披露し、意見交換を通じて今後の課題を明らかにすることに成功した。ウェブおよびニュースレターを通じて、研究成果に関する一般向けの情報発信も積極的に実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成22年度からの3年間で、比較経済発展論アプローチの有効性を示すことができた。すなわち、現途上国の分析と戦前日本など現在の先進国がまだ貧しかった時期の分析とを長期的視野に立って組み合わせること、マクロ諸変数とマイクロデータの分析を組み合わせることにより、開発途上国における持続的な経済成長と貧困削減に資するような政策・制度を明らかにすることができるということである。ただし当初3年間の成果では、歴史的アプローチと計量経済学的アプローチとの融合、マクロ的アプローチとミクロ的アプローチの融合という点で、手法面での傑出した成果はまだ十分に出ていない感はある。これに関しては、各研究者や個別論文のレベルでの融合が難しい場合でも、経済発展の重要論点ごとに研究論文集という形での融合を目指すこと、ミクロ経済理論に基づいた数値解析の動学モデルを構築し、その予測をミクロ・マクロ、現代・歴史の比較のための視座とすることという今後の研究の方向は明確である。 制度と組織、経済取引の詳細など、通常の国民所得データ、企業・家計データなどからは得られないオリジナルのデータを独自に収集・分析する点で、当初の目標に向けて順調な進展が見られる。現地の研究協力者との連携により集めるアジア、アフリカにおける組織的なフィールド調査のマイクロデータと、これまであまり利用されてこなかった歴史資料(戦前日本の農家経済調査個票データ、民事訴訟データなど)のデータベース化は、順調に進んでおり、個別データへのアクセス希望が多く寄せられている。プロジェクト終了時までにこれらを公共財として学界に幅広く提供することにより、予定通りの成果が見込める。
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Strategy for Future Research Activity |
特に大きな変更なしに研究を進める予定である。すなわち、平成22~24年度の研究とデータベース構築作業を継続しつつ、最終年度の平成26年度には、関係する内外の研究者や実務家を招いた国際シンポジウムを開く予定である。また、その成果を、最終的に英文の学術出版、レフェリーつき英文学術誌、開発援助政策への関与という3つの形態で公表する。データベース構築作業の計画は、おおむね当初計画に基づいて進める。 研究期間終了までの2年間で、特に重点的に研究するのは、以下の3点である。 第一に、歴史的アプローチと計量経済学的アプローチとの融合、マクロ的アプローチとミクロ的アプローチとの融合を統一的に行う手法として、家計の動学的最適化と市場一般均衡効果のミクロ経済理論に基づいた数値解析モデルを構築し、その予測を基に、ミクロ・マクロ、現代・歴史の諸側面を比較する手法を確立させる。モデルはある程度の汎用型をまず構築した上で、長期的経済発展と持続的貧困削減に鍵となる個別の論点(自然災害のインパクト、信用アクセスなど)の分析に対応した拡張が容易になるように設計する。 第二に、東アジア諸国の人的資本蓄積を考慮し、農耕社会段階から前期工業化段階への移行という第一局面だけではなく、前期工業化段階から後期工業化段階への移行、さらには脱工業化段階への移行を見据えた分析を行う。言い換えると「中進国の罠」を脱却する上で必要な人的資本とそれに資する制度・政策は何かという問題である。絶対的貧困脱却だけでなく、先進国への移行まで見通した開発政策が、第一局面においてどのようなものであるべきかについての研究を、比較経済発展論の枠組みで進める計画である。 第三に、個別政策設計への政策提言を、これまでの研究成果が集中している分野に関して行う。現在計画しているのは、アジア・アフリカ諸国における天候保険導入および信用アクセス改善である。
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Research Products
(58 results)