2011 Fiscal Year Annual Research Report
分子地球化学:原子レベルの状態分析に基づく地球と生命の進化史の精密解析
Project/Area Number |
22224011
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
高橋 嘉夫 広島大学, 大学院・理学研究科, 教授 (10304396)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
勝本 之晶 広島大学, 大学院・理学研究科, 助教 (90351741)
坂口 綾 広島大学, 大学院・理学研究科, 助教 (00526254)
植木 龍也 広島大学, 大学院・理学研究科, 准教授 (10274705)
谷水 雅治 独立行政法人海洋研究開発機構, 高知コア研究所, サブリーダー (20373459)
光延 聖 静岡県立大学, 環境科学研究所, 助教 (70537951)
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Keywords | 分子地球化学 / XAFS / 内圏錯体 / 外圏錯体 / モリブデン / タングステン / 同位体比 / 生体必須元素 |
Research Abstract |
本研究では、元素の化学種を調べ、その結果が地球化学的にどのような意味を持つかを念頭において研究を進めており(分子地球化学)、本年は主にモリブデンとタングステンについて研究を行った。詳細なXAFS解析により、海水中で安定な4配位6面体のモリブデン酸およびタングステン酸に対し、酸化的な海洋で海水から吸着除去される際、水酸化鉄に吸着したモリブデンは主に4配位6面体のモリブデン酸イオンの外圏錯体として吸着されるが、タングステン酸は6配位8面体の内圏錯体として吸着されることが分かった。外圏錯体に比べて内圏錯体の方が化学的に安定であるため、海水に対する鉄マンガン酸化物中の濃度がモリブデンに比べてタングステンで2ケタほど大きいのは、このような表面錯体構造の違いに起因すると考えられ、これは現在の海洋でモリブデン濃度がタングステン濃度に比べて3ケタほど大きいことの原因でもあると考えられる。同族であるこの2つの元素は、地殻平均存在度はほぼ同等であるが、モリブデンが生体必須元素でタングステンが毒性元素である背景には、このような物理化学的な性質の違いがあると考えられる。またこれまでのモリブデンの同位体平衡反応で、理論で予測される「配位数が小さく結合距離が短い化学種に重い同位体が濃縮すること」が確認されたので、タングステンについては鉄マンガン酸化物中の同位体比が海水に比べて軽くなることが予測され、現在このタングステン同位体比の分析を進めている。このように、酸化的な環境でのモリブデンとタングステンの挙動の違いや濃度・同位体比の考察が進んだので、さらに本年では還元的環境でのこの2つの元素の挙動の違いに関する研究を進めた。特に実際のフィールドで酸化還元状態が異なる環境での2つの元素の水溶解性を比較するために、沖縄海底熱水域の研究航海に参画し、熱水-堆積物系での2つの元素の水溶解性に関する考察を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究でキーとなるモリブデンとタングステンの2つの元素について、酸化的環境と還元的環境の両方の系での総合的な挙動比較や同位体比の変動の研究が進展しつつある。特に沖縄熱水での調査に参画できたことは、本研究でも重要なポイントである。またセリウム異常とセリウム同位体に関する研究も進展中で、当初計画にはなかった古酸化還元環境に関するより幅広い研究に発展しつつある。また、分子軌道計算による考察も進めており、より本質的な「分子地球化学」的研究が可能な状況になっている。
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Strategy for Future Research Activity |
11で示した通り、当初の予定になかった幅広い研究が展開できており、これらを成果としてきちんと残していることが重要である。また当初計画で予定している地球の酸化還元環境が大きく変動した時期の堆積岩の研究のための野外調査がまだ十分でないので、2012年度には、こうした調査を実現させたい。
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Research Products
(56 results)