2012 Fiscal Year Annual Research Report
協奏機能分子触媒による遍在小分子の固定化技術の開拓
Project/Area Number |
22225004
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
碇屋 隆雄 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (30107552)
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Project Period (FY) |
2010-05-31 – 2014-03-31
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Keywords | 選択的合成・反応 / 錯体・有機金属触媒 / 不斉合成・反応 / 触媒設計・反応 / 環境調和型反応 |
Research Abstract |
われわれは、金属とともに配位子が触媒サイクル中で構造変化しつつ基質の変換に直接関与する協奏機能分子触媒の開発および実用触媒への展開をめざし研究推進している。本年度は、協奏機能触媒を用いたアンモニアや水のN-HおよびO-H結合の活性化に取り組んだ。その結果、ペンタフルオロベンゼンスルホニルジアミン配位子をもつα位にNH基をもつルテニウムおよびイリジウム錯体がアンモニアや水と反応して、C-F結合の切断を伴って分子内でC-O、C-N結合を形成する新規反応を見いだした。アンモニアとの反応で得られる3座キレート型錯体はhemilabileなアミン部位をもち、ケトン類の水素移動型還元反応に対する高効率、高立体選択的な新規触媒となることもわかった。またβ位にNH基をもつ6員環キレートピラゾール錯体が水のO-H結合を切断してヒドロキソ錯体を与えるとともに、ベンゾニトリルの水和によるベンズアミド生成の触媒となることを明らかとした。これらは5員環構造をもつ類縁体には見られない反応性であり、配位子の構造変化と協奏機能触媒活性との相関を示す好例である。 一方、N-ヘテロ環状カルベン金錯体が、二酸化炭素と種々のプロパルギルアミン類の環化カルボキシル化に有効であることを見いだし、新たな二酸化炭素固定化法として確立することができた。 さらに、α位にNH基をもつ協奏機能ルテニウムジアミン触媒によるケトン類の水素移動反応の機構について、東工大のTsubame計算機を用いて溶媒和の影響を考慮したDFT計算を用いて再精査した結果、溶媒を含む水素結合ネットワークを介して水素原子が段階的に移動して生成するイオン中間体を経由する新たな反応機構を提案した。この結果は実際の触媒系における触媒活性と溶媒の相関を合理的に説明できることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
新規協奏機能触媒を用いたアンモニア、水、二酸化炭素の活性化を行い、水、二酸化炭素については触媒反応へと展開することができた。特に水の活性化において、電子求引性のペンタフルオロベンゼンスルホニル基をもつハーフサンドイッチ型のアミド錯体が水のO-H結合をすみやかに切断し、スルホニル基内のC-F結合の切断を伴って分子内でC-O結合を形成する新規反応を見いだした。実験化学的におよび東工大の大型計算機Tsubameを用いる反応溶媒を含む高度な理論計算によって詳細に検討した結果、本反応は金属-アミド協奏機能によるO-H結合切断の結果生成するヒドロキソ錯体が、フルオロアリール基に対して求核置換をおこなうという経路で進行することを明らかとした。これらの成果は、協奏機能触媒を用いた小分子の効率的触媒固定化につながる重要な知見であり、アンモニアを含むアミン化合物の触媒的固定化への展開が期待できる。 大型計算機Tsubameの威力は、α位にNH基を有する協奏機能ジアミン触媒によるケトン類の水素移動反応の機構についても効果的に発揮された。すなわち、従来の仮想真空状態での計算とは異なり、実際に用いるアルコールなどの溶媒和を考慮したDFT計算を用いて反応を再精査した結果、アルコールを含む水素結合ネットワークを介して水素原子が段階的に移動する新たな反応機構を提案できた。この結果はより実体に近い触媒設計にもつながる重要な進展と考えられる。 以上のように、本研究では理論、実験、各種分光学的測定など多角的な手法によって新規協奏機能触媒の開発に取り組み、水などの小分子の新しい様式での活性化や、高い触媒効率を実現することができた。また、協奏機能触媒の構造と機能の相関について実験、理論の両面から解明可能となり、協奏機能触媒による遍在小分子の活性化および固定化の実現に着実に近づいているものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究の結果、様々な構造をもつ金属錯体へと協奏機能触媒の概念を拡張するとともに、二酸化炭素、水などいくつかの遍在小分子についてはその触媒的な固定化を達成している。一方、金属α位にNH基を有する触媒だけでなく,新規に開発したβ位にNH基をもつ協奏機能触媒を用いてもアンモニアなどアミン化合物のN-H結合も協奏的に活性化,切断できることを明らかにしている。特に、窒素分子からアンモニアへの固定化プロセスにおける鍵中間体であるヒドラジンの触媒的分子変換に有効な協奏機能触媒を見いだしていることから、本研究計画最終年度では、これまでに明らかにしてきた協奏機能触媒の反応性に関する知見を活用し、窒素固定や水からの水素発生、酸素発生など、より難度の高い反応に取り組む。
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Research Products
(43 results)