2011 Fiscal Year Annual Research Report
食品リスク認知とリスクコミュニケーション、食農倫理とプロフェッションの確立
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22228003
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
新山 陽子 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (10172610)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
春日 文子 国立医薬品食品衛生研究所, その他部局等, その他 (40183777)
栗山 浩一 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (50261334)
高鳥毛 敏雄 関西大学, 公私立大学の部局等, 教授 (20206775)
楠見 孝 京都大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (70195444)
秋津 元輝 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (00202531)
細野 ひろみ 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (00396342)
工藤 春代 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (60452281)
鬼頭 弥生 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (50611802)
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Keywords | 市民のリスク認知構造 / 放射性物質のリスク知覚 / 買い控え行動 / 双方向リスクコミュニケーション / フードコミュニケーション / 食品事業者倫理 / 農業者と消費者の倫理的関係 / 食品技術者のプロフェッション |
Research Abstract |
2011年3月の福島第一原子力発電所事故より放出された放射性物質による食品汚染に対する市民の強い不安に対応するために、計画を変更してリスク認知やリスクコミュニケーション研究に取り組み、学術的価値の高いデータを得た。 【課題1】リスク認知構造研究:A)2008年に調査した国際比較データから日本の市民のリスク認知構造を解析した。大量報道→イメージ想起→悪影響の重大さ→リスク知覚の影響関係が強く、知識や信頼の影響が小さいことを明らかにした。5月、翌1月に食品を介した放射性物質のリスク認知についてWeb調査を実施した。 B)9月、翌2月にWeb調査を実施、食品の放射性物質汚染情報の信頼性評価と信頼性低下が食品回避に至るプロセスをパス解析により解明した。 C)6月、9月、翌2月にWeb調査を実施(選択実験)、放射性物質検査結果表示への消費者の反応と買い控え行動の継続を観察した。 【課題2】双方向リスクコミュニケーションモデルの提示と実施実験:2013年度予定の実験を前倒し、急遽5月にモデルを開発し、関東、関西の市民を対象に放射性物質について消費者庁と連携してコミュニケーション実験を行った。健康食品にも実施し、市民の疑問に応える科学情報の提供、市民のみのディスカッションの効果が大きいことを確認した。 【課題3】フードコミュニケーションテキストの作成のために、国内外の食育プログラム・テキストを収集、検討した。 【課題4】食品関係者の倫理研究:A)食品事業の社会的責任に関して10事業者のインタビュー結果をとりまとめた。B)産消提携にみられる倫理的関係を明らかにするために、タイ、北米、日本で調査を実施した。 【課題5】食品技術者のプロフェッション研究:食品衛生担当者の配置と専門性について、克明な調査票を作成し、日本の全国自治体アンケートを実施した。イギリスの政府、地方組織のヒアリングを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.食品由来リスクの認知構造の基本モデルを定量的分析により確定できた点で学術的価値が高い。それにより、大量報道→悪影響のイメージ想起→健康への悪影響の重篤さ知覚→リスク知覚に至る強い認知的な因果系列が見いだされ、知識や信頼の影響が弱いことが明らかになり、それを補強するリスクコミュニケーションの必要性が確認された。 2.市民の情報理解に関する心理学的な実験調査により、信頼性の異なる情報源からの情報統合のプロセスを実証的に解明した点で学術的価値が高く、市民のリスクリテラシー向上に有効な情報提供方法を提示できた。 3.放射性物質汚染が消費者行動に及ぼす影響について、1年に渡る観察データを得られたことは学術的価値が高く、また、依然として被災地農産物の買い控え行動が続いていることが明らかになり、一層のリスクコミュニケーションの必要性が確認された。 4.市民の疑問に応える科学情報の作成と、市民自身によるグループディスカッションにより精緻な情報吟味を行える場を提供する、双方で密なリスクコミュニケーションモデルを提示することができ、放射性物質と健康食品についてフォーカスグループで実験を行い、良好な評価と効果を得ることができた。学術的価値と社会的貢献が大きい。 5.食品技術者(食品安全・衛生管理者)の専門性について、昨年の予備調査にもとづき克明な調査票を作成し、全国地方自治体一斉調査により高い回収率を確保できた。また、イギリスの中央政府や地方行政組織のヒアリング調査により、業務の連携と人材配置、専門性の確保について貴重な情報が得られた。 6.緊急の事態に対応し、研究を進めることができたのは、これまでの手法の蓄積や行政機関の関係者との連携、自然科学、社会科学諸分野の学際的な研究組織を継続してきたことによるところが大きい。
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Strategy for Future Research Activity |
■課題1(リスク認知構造研究)A)国際比較調査データを用いたリスク認知構造のSEM解析を継続し、世界観の影響を確認し、仏・独・米・韓の各モデルを確定する。食品を介した放射性物質のリスク認知構造について、本年度のWeb調査データを元に、時間経過に伴う変化や男女差を解析する。国際比較調査を実施する。健康食品のWeb調査データをもとに、低リスク知覚ハザードの認知構造と情報提供による変化を解析する。 B)遺伝子組換え食品、放射性物質を対象にWeb心理学実験を実施し、引き続き、対立情報の提供が情報統合を通してリスク理解に至るプロセスと批判的思考の影響を解析する。食品の放射性物質汚染情報の信頼性評価と信頼性低下が食品回避に結びつくプロセスについて継続調査し、時間経過による変化と地域差を明らかにする。 C)Web上の選択実験を継続し、放射性物質検査結果表示への消費者の反応と買い控え行動について観察を継続する。 ■課題2(双方向リスクコミュニケーションモデル提示と実施実験)本年度開発した二段階双方向モデルの第二段階普及コミュニケーション実験を実施する。 ■課題3(フードコミュニケーションテキスト作成)テキストに必要な視点、体系、要素について第1次案を作成し討議を進める。 ■課題4(食品関係者の倫理研究) A)食品事業の社会的責任に関する出版草稿を準備する。公正取引に関するデータ、資料収集を進める。B)産消提携関係を対象に海外、国内調査を実施し、新たな関係性倫理の視点を探索する。 ■課題5(食品技術者のプロフェッション研究と制度構想)食品衛生担当者の配置と専門性について、本年度実施した全国自治体アンケート調査の分析を行い、実態把握を進め、課題を抽出する。海外諸国の政府、地方組織、専門職業組織のヒアリング調査を進める。
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