2012 Fiscal Year Annual Research Report
食品リスク認知とリスクコミュニケーション、食農倫理とプロフェッションの確立
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22228003
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
新山 陽子 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (10172610)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
秋津 元輝 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (00202531)
高鳥毛 敏雄 関西大学, 公私立大学の部局等, 教授 (20206775)
春日 文子 国立医薬品食品衛生研究所, その他部局等, その他 (40183777)
栗山 浩一 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (50261334)
鬼頭 弥生 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (50611802)
工藤 春代 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (60452281)
楠見 孝 京都大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (70195444)
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Project Period (FY) |
2010-05-31 – 2015-03-31
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Keywords | 市民のリスク認知構造 / 放射性物質のリスク知覚 / 買い控え行動 / 双方向リスクコミュニケーション / フードコミュニケーション / 食品事業者倫理 / 農業者と消費者の倫理的関係 / 食品技術者のプロフェッション |
Research Abstract |
【リスク認知構造研究】A)2008年の国際比較調査データにより、世界観がリスク認知に与える影響を確認し、仏・独・米・韓各国の市民の認知構造を解析した。前年度Web調査データにより、食品を介した放射性物質のリスク知覚には、メディア情報や知識の影響が小さく、イメージの影響が大きく、そこに時間経過による変化、性差がないことをみいだした。仏・韓でもWeb調査を実施した。健康食品のWeb調査データにより、低リスク知覚ハザードの認知構造を確定し、情報提供により知識の影響が増大することを明らかにした。B)遺伝子組換え食品、放射性物質を対象にWeb心理学実験を実施し、対立情報が統合されてリスク理解に至るプロセスと事前態度の影響を解析した。また情報の信頼性低下が食品回避に至るプロセスについて継続調査し、時間経過による変化と地域差を明らかにした。C)Web上の選択実験を継続し、放射性物質検査結果表示には無反応なのに、買い控え行動が続いていることを明らかにした。いずれにおいても密なリスクコミュニケーションの必要が確認された。 【双方向リスクコミュニケーションモデル実験】開発したモデルの普及実験を放射性物質について2自治体で実施、効果と改善点を確認した。 【フードコミュニケーションテキスト作成】必要な視点と体系について1次案を作成、全体討議した。 【食品関係者の倫理研究】A)食品事業の社会的責任に関する出版草稿を準備した。前年に続き、技術者倫理に関する実験的講義を実施した。B)産消提携関係を対象に北米、国内調査を行い、生活者視点からの新たな関係性を探った。 【食品技術者のプロフェッション研究】食品衛生担当者の配置と専門性について、前年度アンケート調査より全国自治体の実態と課題を抽出した。加・豪・デンマークの政府、地方組織を調査、デンマークの二大学で専門職養成高等教育カリキュラムの改革の先駆的情報を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.食品由来リスク認知の基本構造モデルを定量的分析により確定できた。それにより、大量報道→悪影響のイメージ想起→健康への悪影響の重篤さ知覚→リスク知覚に至る強い認知的な因果系列が見いだされた。また、このモデルを用いることにより、放射性物質や健康食品の個々のハザードの固有の認知構造の特徴を予想以上に明瞭に把握できることが確認できた。その結果、リスクコミュニケーションの課題を浮かび上がらせることができ、また、コミュニケーションの効果の検証にも使用できる見通しができた。 2.心理学的な実験調査により、対立情報の統合プロセスと事前態度の影響を明らかにし、また、2年にわたる調査により、放射性物質汚染情報に対する信頼低下と食品回避のプロセスの時間変化を解明し、市民のリスクリテラシー向上に有効な情報提供方法を提示できた。 3.放射性物質汚染が消費者行動に及ぼす影響について、同一の回答者を2年にわたって追跡調査し、貴重な学術的データを得た。汚染レベルの検査結果表示には無反応なのに、依然として被災地農産物の買い控え行動が続いていることが明らかになり、不安解消のために検査に重きを置く現行対策への知見が得られた。 4.自治体と連携し双方向で密なリスクコミュニケーションモデルの普及実験を行った結果、市民の疑問に応える科学情報の作成、市民自身によるグループディスカッションにより精緻な情報吟味を行える場を提供したことについて、良好な評価と効果を得た。 5.食品技術者(食品衛生管理者)の配置と専門性について、自治体一斉調査により全国の実情を掌握できた。また、加・豪・デンマークついて、政府・地方行政組織の職員配置と専門性の実情が把握でき、特に、デンマークでは大学における専門職養成の高等教育カリキュラム、行政における専門能力の向上のための研修システムに関する改善の先駆的取り組みの情報が収集できた。
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Strategy for Future Research Activity |
【リスク認知構造研究】A)リスク認知構造解析:放射性物質の科学情報をWeb上で提供しリスク認知の変化を観察する実験調査を実施し、双方向リスコミ実験結果等と比較し、リスクコミュニケーション手法の幅を検討する。リスク認知に関しWeb調査と質問紙調査との母集団の反映状態を比較検討する。B)食品リスク情報提供手法と市民の情報理解:同一の情報ソースが対立意見を取り上げるケースについて、統制の取れた実験と系統的な調査データ収集を行い、リスク認知のバイアスを低減し、食品リスクリテラシーを高めうるリスクコミュニケーションのモデル化を行う。放射性物質に関する調査を継続し、リスクリテラシーとリスク認知の継続研究を行う。C)消費者行動分析: Web調査を継続し、食品の放射性物質汚染への消費者の反応と買い控え行動の変化について観察を続け、経済実験によってWeb調査の結果妥当性を確認する。 【双方向リスクコミュニケーションモデルの実施実験】食中毒菌による生肉食のリスクなど市民のリスク低減行動が求められるケースを取り上げ、引き続き自治体と連携し、実施実験を行い、普及段階の改善やモデルの拡張を行う。 【フードコミュニケーションテキストの作成】必要な視点や体系の議論を深め、原稿依頼を行えるようにする。 【食品関係者の倫理研究】A)食品事業に関する社会的責任の出版準備を行い、食品安全学のテキストの草稿を準備する。B)農業者と消費者をむすぶ倫理を「生活者」視点で構想し、研究会、質的調査を実施し、出版をめざして研究を進める。 【食品技術者のプロフェッション研究と制度構想】日本の政府、専門職業間組織の食品安全業務と職員の専門性について調査を実施する。日本への知見が大きいと判断した英、仏、デンマークについて、法や高等教育制度、カリキュラムなどを掘り下げて分析し、国情の違いを考慮してそれらの評価を行う。
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