Research Abstract |
生体組織の力学応答メカニズムを解明するために,主にブタ胸大動脈を対象とし,生理状態で組織内部の微細構造に加わる力を可能な限りの精度で推定し,この力と組織内のタンパク質の発現との関係を明らかにすることを目的として4年間に亙る研究を進めている.研究初年度の本年度は,解析対象を主に弾性板とし,弾性板の蛇行度合が部位により大きく異なる原因を調べた.蛇行度の差の原因としては,生理状態で作用する力が異なること以外に,1)弾性板の力学特性が異なる,2)弾性板の変形が壁内で均質でない,なども考えられる.そこで,この点を確認するために,まず,血管壁内の各部より弾性板を単離し,現有するマイクロ引張試験機で弾性板の力学特性を求めた.この結果,弾性板の力学特性には部位による差は見られず,弾性率と蛇行度あるいは壁内位置にはとくに相関が見られなかった.次に大動脈の薄切(厚さ10μm)組織片の引張に伴う変形を計測した.本研究の開始前に試作した顕微鏡下引張試験装置で薄切片を引張り,その際の組織内の細胞レベルの変形がどのように進むのか細かく観察した.当初計画したコラーゲン線維の鮮明な可視化にはまだ成功していないが,弾性板の局所変形や平滑筋の変形を詳細に観察することが可能となり,弾性板はまず長さが変わらずに蛇行が解消されて行き,真っ直ぐになった後に伸び始めること,平滑筋層には単純な引張だけでなく,細胞の回転や剪断など複雑な変形が生じていることが明らかとなってきた.また,同様の結果が厚い試料でも得られたことから,このような不均質な変形が試料の薄切によるアーチファクトでないことを確認した.以上より,部位による弾性板の蛇行の違いは,弾性板の不均質性ではなく,実際に加わる力が異なることにより生じているらしいことが明らかとなった.
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