2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22244036
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
島野 亮 東京大学, 大学院・理学系研究科, 准教授 (40262042)
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Keywords | 励起子 / 電子正孔液滴 / 電子正孔BCS状態 / ボースアインシュタイン凝縮 / 励起子絶縁体 / テラヘルツ分光 / ポンププローブ分光 / 励起子モット転移 |
Research Abstract |
1.Siのスピン禁制暗励起子の寿命測定 低温強磁場下で動作する広帯域(0.5-7 THz)高周波数分解能(50 GHz)の光ポンプテラヘルツプローブ分光法の開発を進め、間接遷移型半導体Siの励起子の微細構造の観測と寿命評価を行った。磁場下で最低エネルギー状態をとるスピン禁制暗励起子の寿命測定に成功した。 2.低温強磁場高圧下光ポンプテラヘルツプローブ分光法の開発 間接遷移型半導体において量子凝縮相発現の阻害要因となる電子正孔液滴の形成を抑制するためのテラヘルツ分光用1軸性圧力アンビルセルの開発を進めた。Siにおいて実際に圧力下で電子正孔液滴の形成が抑制されていることを、テラヘルツ帯に現れる電子正孔液滴の表面プラズモンの観測から確認した。アンビルセルの低温強磁場環境下への組み込みを完了し、極限環境下での光励起電子正孔系のテラヘルツ分光が可能になった。 3.Siの励起子モット転移 Siの励起子モット転移における電子相関効果をテラヘルツ分光により調べた。励起子の束縛エネルギーが励起子モット転移濃度の前後でも大きく変化しないこと、自由キャリアの散乱レートがモット転移濃度近傍で著しく増大し異常金属相が出現すること、モット転移濃度近傍で励起子とプラズモンが結合した新しい素励起が現れることなどを明らかにした。 4.間接遷移型半導体Geの高密度電子正孔系 Geの高密度電子正孔系のテラヘルツ分光を行い、電子正孔液滴の表面プラズモン共鳴の観測、励起子1s-2p遷移の観測を行った。液滴形成の転移温度以上でその存在が示唆されている凝縮プラズマ相の有無についてテラヘルツ帯の過渡吸収測定から調べるための光源の整備、分光系の整備を進めた。 5.光誘起非平衡BCS状態 金属超伝導NbNに高強度テラヘルツパルスにより高密度のボゴリューボフ準粒子励起を行うことにより生じる非平衡BCS状態について、テラヘルツポンプテラヘルツプローブ分光法を用いて調べた。BCSギャップ近傍の光学伝導度スペクトルの観測から、テラヘルツパルスのパルス幅以内に超伝導状態が破壊され、準安定な非平衡BCS状態へと移行することを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1軸性圧力下テラヘルツ分光用アンビルセルの開発には試行錯誤を必要としたが、Siの高密度電子正孔系の研究にとって必要な圧力(300MPa以上)に到達し、高圧及び強磁場低温下という極限環境下での透過型テラヘルツ分光を実現できたことは画期的である。さらに、レーザー光源の安定化に伴い光ポンプテラヘルツプローブ分光の精度が飛躍的に向上し、励起子モット転移の機構解明やスピン禁制暗励起子の寿命測定が大きく進展した。高強度テラヘルツ波光源の開発は順調に進展し、金属超伝導体におけるテラヘルツ波パルス誘起非平衡BCS状態のダイナミクスの観測を可能にした。これは量子凝縮相のテラヘルツ非線形応答についての先駆的な研究とみなせる。
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Strategy for Future Research Activity |
低温高密度の電子正孔系の基底状態、電荷ダイナミクス、絶縁体金属転移における電子相関効果を、引き続き独自に開発した極限環境下でのテラヘルツ分光法により調べる。量子凝縮相の安定化に必要な物質パラメータの最適化を図るとともに、物質系に則した光励起条件を実現するためにパラメトリック光増幅器による波長変換を行い、広い励起波長範囲での光励起テラヘルツプローブ分光系を構築する。3次元バルク系を中心として電子正孔系の基底状態、相図の系統的な理解を目指す。量子凝縮相の光制御の観点からBCS超伝導体のテラヘルツ波パルス励起の研究を推進する。
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Research Products
(21 results)