2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22245002
|
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
平田 文男 立命館大学, 生命科学部, 教授 (90218785)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉田 紀生 九州大学, 理学(系)研究科(院), 准教授 (10390650)
|
Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | イオンチャネル / RISM理論 / 3D-RISM理論 / 一般化ランジェヴァン理論 / イオン分布 / イオン選択性 / 蛋白質の揺らぎ / 分散・共分散行列 |
Research Abstract |
イオンチャネルは生物内の情報伝達機構において中心的な役割を担う分子機械である。本研究は、イオンチャネルのイオン透過機構とその選択性を分子レヘルて制御する理論的方法論を構築することを目的に、1. KcsAチャネルのイオン選択性、2. KcsAイオンチャネルの動作機構解析、3. 不均一RISM理論の構築、を課題として遂行した。その成果を課題毎に述べる。 (1) 3D-RISM理論に基づき、チャネル内部のカリウムイオンとナトリウムイオンの平均力ポテンシャルを解析し、それらを比較することによって、KcsAチャネルのカリウムイオン選択性に関するモデル(ロッククラインミングモデル)を提案した。 まず、両イオンともチャネルに侵入する際に脱水和に伴う活性化障壁を乗り越える必要があるが、その障壁の高さはナトリウムイオンの方がカリウムイオンに比べて高い。さらに、チャネル内部から外部に出て行く際の自由エネルギー障壁の形状に顕著な違いが見られる。ナトリウムイオンの場合は、非常に障壁を一挙に乗り越える必要があるのに対して、カリウムイオンの場合は障壁の途中に局所的な安定点があり、2段階で乗り越えることができる。 (2) チャネル内部へのイオンの侵入は開口部の開閉(ゲーテイング)によって制御されているが、この機構はチャネル(蛋白質)の構造揺らぎと密接に関わっている。3D-RISM理論に基づき、蛋白質の構造揺らぎとダイナミクスを記述する理論を提案した。 (3)チャネル内部のイオンのダイナミクス(伝導)を解明するためには、チャネル内部の不均一な場の中におけるイオンや水の2体相関関数が必要となる。本研究では、異なる位置における密度分布関数の積でこの2体相関関数を近似する方法を考案した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
3D-RISM/RISM理論と一般化ランジェヴァン理論を組み合わせることにより、蛋白質の構造揺らぎと電解質溶液の密度揺らぎが互いに相関をもって時間発展を行うダイナミクス方程式を導出した。これは統計力学と生物物理の両分野の発展史上、初めての理論である。蛋白質の構造ダイナミクス方程式に含まれる「構造揺らぎの分散・共分散行列」は、真空中の連成調和振動子のHessianに対応している。すなわち、本理論は溶液中の蛋白質の構造揺らぎの”Hessian”の物理的描像を与えたことになる。さらに、この分散・共分散行列が3D-RISM/RISM理論より算出可能であることを明らかにしたことにより、蛋白質の構造揺らぎを特徴づける具体的道筋を与えた。この点も、また、歴史的成果である。
|
Strategy for Future Research Activity |
1. KcsAチャネルのイオン選択性は、チャネル(蛋白質)の構造だけではなく、その内部に存在する水の分布によって大きく影響を受ける。KcsAチャネルのイオン選択性を明らかにする目的で、その選択フィルター内部でのLi+, Na+, およびK+の水和構造の違いを詳細に調べる。 2. チャネル内部へのイオンの侵入は開口部の開閉(ゲーテイング)によって制御されているが、この機構はチャネル(蛋白質)の「構造揺らぎ」と密接に関わっている。本研究では、3D-RISM 理論に基づき蛋白質の構造揺らぎとダイナミクスを記述する計算のアルゴリズムを提案する。 3. チャネル内部のイオンのダイナミクス(伝導)を解明するためには、チャネル内部の不均一な場の中におけるイオンや水の2体相関関数が必要となる。本年度の研究をひきつぎ、蛋白質の不均一な場の中におけるイオンや水の2体相関関数を求める計算アルゴリズムを考案し、その計算を容易にするため、3D-RISMプログラムとDiscovery Studioとの結合を行う。
|
Research Products
(18 results)