2011 Fiscal Year Annual Research Report
胚発生と対応する幹細胞群を活用した、神経系原基形成の遺伝子制御ネットワークの研究
Project/Area Number |
22247035
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
近藤 寿人 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (70127083)
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Keywords | EpiSC / エピブラスト / 転写制御ネットワーク / 体細胞系列 / 神経系原基 |
Research Abstract |
哺乳類の体は、着床後にできるエピブラスト(胚盤葉上層)から発生する。エピブラストから原腸陥入期に最初に生み出される組織である神経板(神経系原基)は、成立時にすでに領域化されており、それがさらにサブ領域に分れて発生する。神経板の生成と領域化の基盤をなす遺伝子制御ネットワークは、その重要性にもかかわらず未解明である。本研究では、エピブラストを株化したEpiSCを活用する。EpiSCから培養条件下で派生する多様な幹細胞集団の中から、胚の神経系の各発生段階やサブ領域に対応した幹細胞集団を特定する。それらの幹細胞の各々を維持したり、あるいは次の段階の幹細胞状態への遷移を促すための、遺伝子制御ネットワークを明らかにする。これをもとにして、原腸陥入期胚で神経系原基をその領域特性とともに成立させる機構、そして神経系原基の発生の進行を制御する機構を明らかにする。 この研究目標に向かって、平成23年度では、EpiSCのエピブラスト状態ならびに前部神経板への遷移状態において、主要な転写因子のノックダウン(発現抑制)と過剰発現の効果を系統的に調べた。当初、Sox属・ Pou属転写因子と標的遺伝子との相互作用を分析していたが、Zic属転写因子が重要な制御機能をもつことを見いだし、Zic属因子を含めて研究を展開した。その結果、Zic因子群が神経系組織の発生を促進すると同時に、内胚葉系ならびに中胚葉系の組織の発生を強く抑制することが明らかになった。また、Sox属、Pou属の転写因子の作用を含めて、次の制御機構を確認することができた。限定された体細胞系列を発生させるためには、それらの体細胞の発生に必要な転写因子を活性化すること以上に、他の体細胞系列の発生にかかわる転写因子を抑制することが重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究をもとにして、EpiSCをエピブラストから個別の体細胞系列への発生の制御の解析に活用した研究をまとめて、論文発表することができた。EpiSCをこの目的で活用した世界で初めての研究発表であり、幹細胞研究者に衝撃を与えた。 その研究内容には、Zic因子群が神経系組織の発生を促進すると同時に、内胚葉系ならびに中胚葉系の組織の発生を強く抑制するという、重要な制御機能をもつという発見、また、限定された体細胞系列の発生には、それらの体細胞系列の発生の促進以上に、他の体細胞系列の発生の抑制が重要であるという新しい知見が含まれ、エピブラストからの体細胞系列の発生機構の基本原理に迫った。
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Strategy for Future Research Activity |
後部神経板の発生の研究から、神経板の領域ごとの個別の発生にはWntシグナルの作用のタイミングとシグナルの強度が関与していることが示唆されている。エピブラストから領域性をもった神経板が発生する過程での、Wntシグナルの関与を分析する。 転写因子ならびにそれらの複合体による発生過程の制御には、個々の転写因子の発現レベルが重要である(発現レベルに応じて、別の発生過程を細胞に選択させる)ことが示唆されている。この関連について系統的に分析する。 EpiSCから神経板を生ずる過程で、Sox2,Pou5f1,Zic2などの主要な転写因子が全ゲノム上のどの遺伝子群を具体的な制御標的にし、また発生過程で制御標的遺伝子の発現をどのように変化させるのかを、ChIP-Seq解析やマイクロアレイ解析を用いて研究する。
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Research Products
(8 results)