2011 Fiscal Year Annual Research Report
サラミナ島パナイア・ファネロメニ修道院聖堂壁画の修復と図像学的研究
Project/Area Number |
22251005
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Research Institution | Kyoritsu Women's University |
Principal Investigator |
木戸 雅子 共立女子大学, 国際学部, 教授 (10204934)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鐸木 道剛 岡山大学, 大学院・社会文化科学研究科, 教授 (30135925)
木島 隆康 東京藝術大学, 美術研究科, 教授 (10345340)
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Keywords | ポスト・ビザンティン / 国際研究者交流 / 国際情報交換 / 壁画修復 / キリスト教図像学 / ギリシャ / ビザンティン美術史 / ビザンティン絵画 |
Research Abstract |
前年度に引き続き聖堂の身廊中央部の大円蓋、その下部のスキンチ、アーチ内側、等の修復を進めた。実質的な修復作業は予定よりも半年ほど遅れた。その理由はギリシャの経済危機問題でギリシャ国内の政治、行政の場が混乱をきたした。その過程で所属のビザンティン考古局第一出張所の所長が退職し、その後任の所長により、修復許可のための申請手続きが変更された。それによれば、修復する箇所の全図面と肉眼での壁画壁面の状況観察の記入を含む詳細な修復事前調査を実施しなければならなくなった。膨大な作業となったが、修復作業代表の修復家ヤニス・スパノス氏が研究協力者のメリー・ハジダキスの協力を得て300ページに及ぶ詳細な報告書を完成させた。それにより考古局によって招聘された査問官によって最終的な修復許可が下ったのが、予定よりも半年遅れとなった。従って実際の修復作業は2012年1月から3月の期間でおこなった。今期の科研研究課題に先立つ研究を始めた時には、中央円蓋部は、1950年代に修復家ザハリウによって大幅にリタッチされており、当該箇所の修復は困難であるという予想をたてていた。実際に足場に上って中央円蓋の[パントクラトール]像を間近に見て、ザハリウの修復の後や壁画壁面の現状を詳細に確認することができた。修復は困難だと目されていた当該箇所が、修復家たちの努力で、予想以上の成果を上げることができビザンティン世界では稀なイエズス会図像と関わりを持つ場面が現れてきた。そうした新たな図像学的考察をする材料を得て、現地調査は木戸と鐸木が2回にわたって行った。木島は修復作業過程における壁画技法の調査、考察を行い以下のような知見を得た。壁画の彩色はセッコ技法であるが、研究協力者宮田順一の報告では壁面に近い部分に炭酸カルシウムが多く存在して描画の初期段階ではフレスコ技法で描かれた可能性もあり、フレスコとセッコ技法が混在している可能性もでてきた。今後媒剤(メディウム)の種類の特定を、絵具微小試料片のサンプリングにより進める予定である
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のとおり、本研究の中心をなす修道院聖堂の壁画修復作業は、ギリシャの社会状況に左右され、予定通りに進まず、かつ役所の事務手続き方法も変わるなど、本研究プロジェクトの代表者は頻繁に現場に赴かなければならなかった。しかしその中で修復家スパノス氏が献身的に事務手続きを粘り強く進めてくれたことで大幅に事業が一時的に遅れはしたが、結果的にはほぼ予定通り終了できた。しかしポスト・ビザンティン時代の規模の大きい聖堂装飾をトータルに捉えて、各図像研究を行うという本研究の目的のためには、一日も早く聖堂内部全体の壁画の全貌を明らかにする必要がある。その面においてやや遅れているともいえる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は本研究課題の最終年となり、これに先立つ3年間を通して継続してきた聖堂壁画の修復を完結させなければならない。しかしながら過去5年間に何度も政治的、社会的なギリシャの国内問題に阻まれたことと、最初の予定した修復費に充当するだけの費用の助成が受けられなかったことから、本年度の壁画の洗浄と修復は聖堂の祭室部分には着手できないことが予想される。これは聖堂全体の壁画を全体的に調べ、18世紀の大規模な聖堂壁画装飾の全体像を明らかにする当初の予定を果たせないことを意味する。そのため現在その祭室部分や、実際に修復作業が残った部分の修復費用を修道院やその他の手段で調達する努力を研究プロジェクトに関わるメンバー全員で行っている。これだけの事業と研究を行ってきたことが、ギリシャの各所で評価され、ギリシャと日本の共同研究の意義が知られるようになっており、継続して本研究を完成させるべく努力した。
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