2012 Fiscal Year Annual Research Report
熱帯高地環境における家畜化・牧畜成立過程に関する学際的研究―アンデスを中心に
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22251013
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Section | 海外学術 |
Research Institution | The Open University of Japan |
Principal Investigator |
稲村 哲也 放送大学, 教養学部, 教授 (00203208)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川本 芳 京都大学, 霊長類研究所, 准教授 (00177750)
大山 修一 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 准教授 (00322347)
藤井 純夫 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (90238527)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 国際研究者交流 / アンデス / ペルー / ヒマラヤ / ブータン / ネパール / インド |
Research Abstract |
ペルーを中心とするアンデスにおけるリャマ・アルパカの牧畜および狩猟に関する文化人類学的研究の民族誌データを基に、とくに高所環境における牧畜の形態に関する知見を蓄積し、遺伝学、考古学、地理学、生態学等との学際的研究により、狩猟/牧畜論・動物家畜化・牧畜成立過程を再考する研究を推進してきた。アンデスでは、代表者による文化人類学的研究と連携し、研究分担者の川本がラクダ科家畜のアルパカとリャマ及びその野生祖先種であるラクダ科野生動物のビクーニャとグアナコを遺伝学的に比較する作業を進めてきた。これまでに、アルパカとビクーニャ、リャマとグアナコの近縁性がそれぞれ認められており、それによって、野生種と家畜種の生態の比較研究が大きな意味をもつことになった。そこで、研究分担者の大山が中心となって、ビクーニャ群の生態、移動範囲等の現地調査を進めてきた。また、稲村はアンデスのインカ期に実施され近年その復活をみたビクーニャの(生きたまま毛を刈って利用する)追込猟の研究を進めてきた。 連携研究者の苅谷愛彦は地形学の立場からラクダ科動物が生息し、また牧畜が営まれているアンデス高原の地形についての研究を進めてきた。また、連携研究者の鶴見英成は、ラクダ科の家畜化がアンデス古代文明の成立に及ぼした大きな影響について、ラクダのキャラバンと形成期遺跡の関連性を明らかにすべく、考古学研究を推進してきた。 研究分担者の藤井純夫は西アジアにおける追込み猟について考古学的観点から研究を行ってきたが、稲村は、西アジアとの比較検討により、動物家畜化における追込み猟の重要性についての検討を進めている。 さらに、稲村は、リャマ・アルパカ牧畜の特徴についての研究を精緻化するため、ヒマラヤ地域における牧畜のバリエーションの調査研究を進めてきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
リャマ・アルパカの牧畜に関する文化人類学的研究の民族誌データを基に、遺伝学、考古学、地理学、生態学等に関する共同研究者による新たな成果が蓄積されており、研究代表者は、それらの知見と文献による先行研究の検討により、動物の家畜化・牧畜成立過程の考察を重ねている。研究分担者の川本は、新たなサンプル採取手法と遺伝子マーカーを用いた分析により、ラクダ科家畜とその野生祖先種である野生動物を遺伝学的に比較する研究をこれまで以上に精緻化してきた。研究分担者の大山は、GPS測定装置を用いて、ビクーニャ群の生態、移動範囲、行動特性等に関する、より精度の高い調査研究を進めてきた。連携研究者の苅谷愛彦はアンデス高原の地形についての学術的な分析を進め、アンデスの地形の特性をより緻密に検討している。また、連携研究者の鶴見英成は、ラクダのキャラバンのルートを想定してアンデス山岳地域の踏査を進め、ルート上に新たま遺跡を確認するなど大きな考古学的成果を挙げつつある。 研究代表者の稲村は、総合地球環境学研究所の高所プロジェクト(代表奥宮清人)と連携をとり、ヒマラヤ地域のブータン、ネパール、インド(アルナーチャル・プラデーシュ州、およびジャンムーカシミール州ラダーク地方)、中国青海省で現地調査を重ね、ヒマラヤ・チベット地域における移牧と遊牧のバリエーションの研究を進め、アンデスとの比較により、牧畜類型化の再構築を為しつつある。ヒマラヤでの研究は、川本の遺伝学的研究との連携により、牧畜・家畜化に関する新たな知見を得ている。ヒマラヤにおける研究成果は、奥宮清人・稲村哲也編著による『続生老病死のエコロジー―ヒマラヤとアンデスに生きる身体・こころ・時間』(昭和堂、2013年3月)の刊行、『ヒマラヤ学誌』に掲載された論文等として発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、アンデスにおける文化人類学、考古学、遺伝学、生態学、地理学の研究成果を結合させ、現地調査をさらに進めるとともに、統合的な観点から分析・考察を推進することが重要だと考えている。考古・遺伝学的側面に関しては、形成期遺跡から出土したラクダ科骨の分析を行う条件が整ってきたため、サンプルの状態に依存する困難な作業ではあるが、その遺伝的な分析に挑戦する。また、アンデスにおけるラクダ科動物家畜化の中心地のひとつとして重視されているペルー中部高原(フニン高原)の踏査・現地調査、またフニンに近いチャンカイ河谷等での集中調査を行うことで、家畜化・牧畜成立過程に関する、地形学、生態学、考古学的な知見を集積し、考察を進める。 ヒマラヤ地域の知見の蓄積が進んできたことから、アンデスとヒマラヤ・チベットの比較研究の重要性・有効性が明らかになってきた。世界の二大山脈の比較により、両地域の特性が明確となり、アンデスに関する理解を一層深めることが可能となる。とくに、ヒマラヤ東部の中高度地域のミタン牛については、これまで研究が非常に少ないが、家畜化を考える上で極めて重要な意味をもつことを確認している。とくに、稲村と川本は、ミタン及びそのウシとの交配種の文化人類学・遺伝学の共同研究を進める。さらに、ネパールの低地においては、スイギュウ群の定牧が行われているが、アンデスのアルパカ・リャマの定牧との対比において、興味深い。家畜化始まった1万年前における牧畜の形態を考える上で、ミタンやスイギュウの牧畜形態をアンデスのラクダ科家畜と比較検討することは、非常に示唆的である。 以上のように、今後は、アンデスでの現地調査・研究、ヒマラヤ地域での調査・研究、両地域の比較研究を積極的に推進していくことで、大きな成果が期待できる。
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