Research Abstract |
本研究では,社会経済構造及び資源利用環境の異なるトルコ,韓国,日本において,森林資源の多面的な機能を特定し,それらを"多次元的な財"と捉え,その動態を定量的に把握する.そして,国際的な開発・保全政策の動向に伴う森林資源利用変化の"財"への影響を地域的な利用及び国際的な貿易の枠組みを用いて,"多次元的な財"の需給動態の関係を描写できるモデル,及びそれらのモデルを統合する部分空間均衡モデルを構築し,開発と生態系保全を両立できる生態系保全政策の探求,分析及び提言を行う. 平成23年度の研究成果は以下の通りである.1)韓国において,昨年度収集したデータおよび,ベイズ法を応用した成長モデルをもとに,ランドスケープレベルの森林伐採計画最適化モデルを構築し,最適な空間伐採パターンを探求した.2)日本において九州地方を中心に1)同様のランドスケープレベルの森林伐採計画最適化モデルの構築を行った.また,沖縄本島北部のデータをもとに野生動物の生息地適性モデルと森林伐採最適化モデルの統合を行い,生態系サービスの経済評価の可能性を検討した.3)また,分析の基盤となる森林成長モデルについては,北海道・富良野で蓄積されたデータをもとに,森林成長モデルの構築を行った.4)森林成長3-D可視化モデルの構築に向け,新しい3次元位置測定装置の導入および枝の曲がりや,新芽の枯死メカニズムを導入した3-D可視化モデルを応用し,林分密度の最適化モデルを構築した,プロトタイプの構築を行った.5)昨年度開発した不十分な観測データしか得られない場合におけるベイズ法の応用による成長モデルについて改良を加えた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H23年度の計画として,リストアップした下記5つの事項を実際に進めることができた. 1)生息地適正モデルおよびLandscape指数モデルの構築に向けたプロトタイプモデルの構築,2)3-D可視化モデルの構築に向けたプロトタイプの構築,3)林分レベル・ランドスケープレベルの最適化モデル構築,4)モニタリングの継続調査(各国の調査フィールドにおける空間時系列データを収集・蓄積),5)統計数理分析手法の確立および調整, 例えば,1)に関しては,沖縄における野生動物種の生息地適性モデル(HSIモデル)のプロトタイプモデルを構築し,伐採計画最適化モデルとの結合を試みた.2)に関しては,磁気を利用した3次元位置測定装置による運動解析システムの導入を行い、動作環境の試験を試みた.また,前年度構築した3Dモデルに対して枝の曲がりや,新芽の枯死メカニズムを導入し,林分密度の最適化モデルを構築した. また,3)についても,上記を含めた九州地方のランドスケープレベルの森林伐採計画最適化モデルの構築と,最適解の探索,及び韓国の森林植生データと成長モデルの応用によるランドスケープレベル伐採計画最適化モデルを構築した.4)については,引き続き,各国において空間時系列データの収集・蓄積を進めている.更に,5)に関しても,昨年度構築したベイズ法の応用による森林成長モデルに改良を加えた.具体的には,繰り返し演算方式によるベイズ法を開発することにより,予測の効率化・および精度の向上を図った.さらに,これらの事項に加えて,外来種の伝播モデルおよび,病害虫の伝播モデルのそれぞれプロトタイプを構築した.害虫や外来種は,在来種と競合するなど,生物多様性の喪失に繋がるため,森林資源が提供する生態系サービスのなかでも特に基盤サービスに影響を及ぼす.持続的に生態系サービスの提供を行うためには,これえら生物的攪乱による被害リスクを軽減することが重要である.ここで,構築したプロトタイプの生物的・生態的モデルは,今後,被害リスク軽減のための効果的かつ効率的な森林管理を探索するために応用することができる.
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度以降は,引き続き各国でデータ収集を行い,生息地評価モデル,生物的攪乱シミュレーションモデル,ランドスケープ景観評価モデル等の構築に向けて空間時系列データを収集・蓄積する.これらのデータを基に,これまで構築してきたシミュレーションプロトタイプを改良し,生態系サービス評価の基盤を整える.また,政策シミュレーションや経済分析に繋げるため,土地利用最適化モデルを構築する.今後の具体的な課題は下記の通りである. (1)生息地評価モデルと森林ランドスケープ管理最適化モデルの結合. HSIモデルがいくつかの生物種について開発できたので,これらの生息地評価モデルと森林ランドスケープ管理最適化モデルを連結し,制約条件として,HSI値の下限値を設定し,その制約を満たしかつ,森林伐採からの経済収益を最大化する最適なランドスケープ管理を探索し,生物種の生息地保全に対する経済評価を行う. (2)森林美的景観評価モデルの構築と管理最適化モデルとの結合. 生態系サービスにおける文化的サービスの経済評価は,供給サービス,調整サービスなどと比べると,あまり進んでいないのが現状である.特に,管理最適化モデルとそのような景観評価モデルの結合については,ほとんど応用例がない.ここでは,森林美的景観評価モデルを構築するとともに,管理最適化モデルとの結合について検討する。 (3)外来種拡散モデル・病虫害伝播モデルと管理最適化モデルの結合. 生態系サービスのなかの基盤サービスの評価については,構築されている外来種拡散モデルおよび病虫害伝播モデルのプロトタイプを応用し,管理最適化モデルと結合させることで,管理のそれら被害リスクへの影響を評価し,効果的かつ効率的な森林管理の探索が可能なシステムを構築する. (4)モデル選択統計分析手法の構築 森林分野への適用に限らず,様々な統計モデリングにおいて,最適なモデルを探索することには非常に重要である.ここでの「最適なモデル」とは,回帰分析における変数から,成長分析における成長関数まで幅広い範囲において様々な候補を用意し,そこから選ばれるものである.その選択過程を表現する統計モデルを構築し,様々な森林データに適用、その結果の評価から統計手法の更なる洗練を行う. (5)3-D可視化プロトタイプモデルの構築 前年度,導入した3次元位置測定装置による運動解析システムを用いて実際に林木成長3Dダイナミクスのデータを収集・蓄積し,3D森林成長モデルの改良を行う.
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