Research Abstract |
(分子のような)記憶や識別子を持たない構成要素から構成される(生物のような)巨大分散システムが,自己組織性,自己安定性(故障から自動的に回復できること),自己改善性といった高度な自律性を獲得できる理由を分散計算論の立場から理解し,自律性を有する(人工の)巨大分散システムの設計論を構築することが本研究の目的である.巨大性,動的性,ランダム性,低信頼性,匿名性という5つの観点から巨大分散システムを理解しようとしているのだが,本年度は以下に示す2つの結果を含む多くの結果を得た.まず,巨大性,匿名性という観点から,ナノ技術に出現する制御技術のモデルであるタイリングと分散システムの基本的な通信方式である放送との関係を検討し,Theoretical Colnputer Science誌に発表した.つぎに,巨大性,匿名性,低信頼性,記憶量という観点から,Mediated Population Protocolと呼ばれるセンサーネットワークのモデルに対して,自己安定的にリーダを選挙する問題の記憶量の限界を与えた.この結果は,その概要をOpodis会議で発表し,Distributed Computing誌に論文を投稿している。(Mediated)Population Protocolは識別子を持たない疎結合の巨大分散システムのモデルであり,ナノ技術で扱われる分子のシステムのモデルと近い位置にある.本モデルの基本的な仮定では,各要素は(分子などと同様)有限の記憶量しか持てない.しかし,本研究では,リーダ選挙を自己安定的に解く分散アルゴリズムを実現するにはシステムのサイズに依存した記憶量が必要であることを示した.したがって,自然界では,リーダ選挙といった人工システムでは重要な問題に還元することなしに,高度な自律性を獲得していると理解される。
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