2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22300090
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
酒井 宏 筑波大学, システム情報系, 教授 (80281666)
|
Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 認知科学 / 脳・神経 / 神経科学 / 画像・文章・音声等認識 / 感性情報学 |
Research Abstract |
視覚皮質V1領域では輪郭・線分が抽出され, V2領域では角度が表現されると共に面が形成され, V4 領域ではこれら求心性情報を統合して2次元形状が表現されているものと考えられる。本研究では、この求心性腹側経路に沿った情報の統合過程を計算論的に理解することを試みた。具体的には、V2で算出される面の情報に基づいて,V1で抽出された輪郭情報を統合することによって,V4において2次元形状を表現するモデルを提案した。このモデルでは、古典的受容野からの特定の方向位置にある,特定の方位の線分を,面情報に基づいて統合する。これによって,V4で観察される方位と曲率に対する選択性が再現できた。 さらに高次の視覚野(IT)の神経細胞は,準大域的な3次元曲面に選択性を示す。これまでの中心軸表現は,2次元の平面を符号化するものであった。本研究では,片眼像それぞれから生成される2次元中心軸を融合することによって,3次元中心軸を生成するモデルを提案した。中心軸表現は,容易に2次元から3次元に拡張できる。2次元の中心軸表現では,輪郭に内接する円の集合によって平面を符号化する。3次元では複数の面に内接する球の集合によって曲面を符号化する。IT細胞が選択性を示す準大域的な3次元曲面を表現するのに,中心軸表現は適当な条件をもっている。モデルのシミュレーション実験の結果から,提案するモデルは3次元形状をよく表現し,生理実験で報告されている視点非依存性なども再現することが判った。これらの結果は,初期視覚野で観察される片眼性の2次元中心軸が融合されて,高次視覚野で報告される3次元中心軸が構成されることを支持する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H24年度は,これまでの研究結果に基づいて,形状の表現と符号化について重点的に研究を実施した。特に,腹側経路に沿って形状表現が形成されていくメカニズムを,計算論的に研究した。モデルの構築と計算実験を順調に実施した。具体的には,曲率選択性の神経メカニズム および 3次元中心軸の生成メカニズム を提案し,それらの妥当性を示した。モデルの妥当性検討のための一つの材料として心理物理実験が計画されていたが,その必要性は低いと判断し,計算論的研究に集中した。このように,概ね順調に研究が進展した。
|
Strategy for Future Research Activity |
視覚領野の細胞が示す刺激選択性は,線分(V1),角(V2),平面・曲率(V4),曲面・軸(IT)と,経路に沿って変化していく。経路に沿って複雑になる選択性が,どのようにして生起され得るのかは,神経科学のみならず情報学的にも極めて興味深い問題である。特に,皮質における情報の表現方式・符号化方式からの制約が,このような多様で複雑な選択性を生起させる可能性があり,これは大胆ではあるが興味深い仮説である。 具体的には,V2, V4領野の細胞が示す角・曲率に対する選択性の生起が,符号化における疎性(sparseness)に依存するという仮説を検討する。すなわち,疎性を制御することによって,生理学的に知られるV2, V4 の選択性を生起することができるかどうかを検討する。具体的には,線分(方位)選択性をもつモデルV1細胞の自然画像に対する反応をもとめ,これを入力として疎性を制約とした成分分析を行うことを提案する。疎性が適当であるときには,適応学習によって算出される基底関数がV2細胞の受容野特性(角選択性)をもつと予測される。それ以外の不適当な疎性のときには,受容野特性を再現しないと考えられる。さらに,モデルV2細胞の反応を入力として,同様に成分分析を行う。疎性が適当であるときには,算出される基底はV4細胞の受容野特性(曲率選択性)を示すと予測される。特に,単一細胞の曲率選択性だけではなく,群として示す特性(acute-angle preference)も再現される可能性がある。このように,様々な選択性を生じさせる基本原理が,形状表現の疎性(sparse coding)にあることを検討していくことが重要である。
|
Research Products
(21 results)