Research Abstract |
本研究は,コンピュータシミュレーションを用いて,F1分子モーターの解明することを目的としている.当該年度には,(1)量子化学計算と全原子レベル計算を組み合わせたQM/MM法を用いたATP加水分解反応機構解析,(2)ATP加水分解後のα-βサブユニットが閉構造から半開き構造になる構造変化の分子動力学計算,(3)リン酸解離に伴うF1分子モーター全体の構造変化の分子動力学計算,(4)F1分子モーターのβサブユニットのC端部位のアミノ酸側鎖を複数同時に変異させる分子動力学計算,(5)液体統計力学理論の専門家との共同研究によるF1分子モーターの作用機序の解明を実施してきた.(1)に関しては,学術論文としてJ. Am. Chem. Soc.に公表することができた.(2)に関しては,ほぼ計算は終了し,現在解析を進めているところである.(3)に関しては,酵母のF1-ATPase(YF1)のリン酸結合型と解離型の2種類の立体構造に対し,全原子分子動力学シミュレーションを遂行し,リン酸解離によるγサブユニットの回転と,回転子に対する固定子であるα・βサブユニットのパッキング状態の変化の関係,そして,リン酸解離に伴うアロステリックな構造遷移の伝播について解析した.(4)に関しては,1分子実験のグループと共同研究を行い,F1分子モーターのエンジンであるβサブユニットについて,γサブユニットと接触してトルクを伝える部位と想定されるC端部位のアミノ酸変異を施した分子動力学計算を遂行し,一分子実験を原子レベルで説明する結果を得た.(5)に関しては,酵母のF1-ATPaseの構造に対し液体統計力学理論を適用し,上記(3)の分子シミュレーションと相補的に解析し,サブユニットのパッキング変化と溶媒和の関係を明らかにした.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では,α・βサブユニットペアに対する計算を行う予定であったが,その計算のみならず,QM/MMによるATP加水分解反応機構の研究,リン酸解離に伴うF1分子モーターのアロステリックは構造遷移の伝搬解析,βサブユニットのC端ドメインの複数同時アミノ酸変異による分子動力学計算と一分子実験の共同研究など,分子シミュレーションによるF1分子モーターの動作機構の全容解明に向けて,研究が大きく進展した.
|
Strategy for Future Research Activity |
F1分子モーターの動作機構の全容解明に向けて,全原子分子動力学シミュレーションを主たる手段として,研究を遂行していく.その中で,実験研究者とも密に情報交換をしつつ,研究を進めていく.
|