2011 Fiscal Year Annual Research Report
眼球反射の運動学習記憶の固定化におけるタンパク質合成と分解の役割
Project/Area Number |
22300112
|
Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
永雄 総一 独立行政法人理化学研究所, 運動学習制御研究チーム, チームリーダー (40164397)
|
Keywords | 記憶痕跡 / 小脳 / 運動学習 / タンパク質合成 / 眼球運動 / 前庭核 |
Research Abstract |
分散効果とは、適当な長さの休憩を挟んで学習したほうが、集中的に学習するよりも、学習により作られた記憶が長く持続するという現象である。そのもとになる脳機構は,よく知られていない。分散効果を調べるためのマウスの視機性眼球運動の実験パラダイムを開発し、分散効果の原因を検討した。マウスに30分-1時間おきに15分の視覚訓練を4回行ったと時(分散学習)と、1時間集中して視覚訓練を行った時(集中学習)とで、誘発される眼球運動の増加を比べたが、訓練終了直後には両学習間には差はなかったが、24時間後には、集中学習による眼球運動の増加は減少していた。これは、分散学習をさせると、眼球運動学習に長期の記憶が形成されることを示唆する。次に、訓練の直後に、小脳皮質に局所麻酔剤を微小投与し出力を遮断すると、集中学習の効果は直ちに消去されたが、分散学習の効果には影響は見られなかった。これは集中学習による運動学習の記憶痕跡は小脳皮質にあるのに対して、分散学習による学習の記憶痕跡は小脳皮質以外の部位であることを示唆する。小脳皮質は小脳(前庭)核に出力することと、先行研究の電気生理学の実験結果は長期間持続する運動学習の記憶痕跡は小脳(前庭)核に存在することを示していることから、分散学習による学習の記憶痕跡は、小脳(前庭)核に存在することが示唆される。さらに学習直前、小脳皮質にタンパク合成阻害剤(アニソマシン,アクチノマイシンD)を投与すると、集中学習による運動学習は影響されなかったが、分散学習による運動学習は阻害された。これらの所見から、分散学習により運動学習の記憶痕跡は小脳(前庭)核に存在することと、その記憶痕跡の形成に、学習時に小脳皮質で新たに作られるタンパク質が必要であることが示唆される。この結果を、J.Neurosci(2011)31:8958-66に発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
運動学習の記憶の獲得には、小脳皮質のタンパク質合成は重要ではないが、記憶痕跡の小脳皮質から小脳(前庭)核への移動により、記憶が固定化されるには、小脳皮質のタンパク質合成必要であることが実験的に証明された。これは運動記憶の獲得と固定化におけるタンパク質合成の役割を、実験的に始めて示したものである
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は運動学習が生じている時に、転写されているRNAをPCRと、DNAマイクアレイ法を用いて同定するとともに、RNAから翻訳されるタンパク質の増減を、PCRを用いて定量化する。さらにin-situ hybridizationにより、それらのRNAが実際に小脳のプルキンエ細胞で学習によって発現するかどうかを検討する。運動学習に特異的に発現するタンパク質が同定できれば、RNA干渉法(iRNA)を用いて、実際に運動学習の記憶形成に関与するかをさらに調べる予定である。
|