Research Abstract |
筋電位信号(EMG)の多点計測および信号処理技術はこれまでに多くの提案があり,かなり詳細なレベルで解析が行えるようになった。しかし,筋電位信号は筋を収縮させるための入力であり,出力である筋の側方変形,すなわち筋音信号(MMG)を同時に計測して評価する必要がある。本研究の目的は,フォトリフレクタを格子状に配置した変位MMGアレイセンサを製作し,MMGの多点計測技術および解析手法を確立し,次いで多点計測されたEMGとMMGの解析結果から,神経・筋接合部帯の分布や運動単位の動員様式,筋線維の走行方向を考慮した伝搬速度などを算出し,筋の二次元的な収縮様相を明らかにすことである。さらに,本手法を神経・筋疾患に伴う運動神経の消失・再支配,高齢者や術後患者の廃用性筋萎縮やリハビリテーション効果の評価,スポーツにおける筋力トレーニング効果の評価に適用することである。 平成22年度において,多点計測用変位MMGアレイセンサを開発・試作し,筋音信号の多点計測技術および解析手法を手掛けたが,本年度は複雑な筋線維配列を持つ大腿直筋の収縮様相を考察するために,購入した超音波装置上を用いて筋線維配列を確認した後,変位MMGアレイセンサを設置した。そして,骨格筋の随意収縮,および経皮的に電気刺激して単収縮を誘発した場合の,それぞれの変位MMGを計測した。また多点計測用筋電計を用いて筋電位を測定し,両者の関係を比較して,筋電位(入力)と筋音信号(出力)から見た筋の収縮様相について二次元システム関数的に考察した。さらに,超音波画像から得られた筋線維配列や走向方向との関係についても検討した。その結果,20代男性(健常者,特に上肢の運動はしていない)の上腕二頭筋における筋音信号の伝搬速度は,5.5~8.5m/sであり,その伝搬方向も筋電位信号の伝搬方向とほぼ同じ方向を推定できることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は,多点計測用変位MMGアレイセンサを用いて変位MMGの多点計測および解析手法を確立し,さらに筋電位の多点解析結果を参照して,筋電位と筋音信号から見た筋収縮メカニズムを二次元的に考察することにしていたが,変位MMGアレイセンサによるデータ収集システムに一部不具合が生じ,その解消に幾ばくか時間を費やした。一方,購入した装置を使って,超音波画像から得られた筋線維配列や走向方向についてはデータを得られたものの,上記筋音信号,筋電位信号を用いて運動単位別に分離された活動電位の伝搬など,筋の収縮様相について二次元システム関数的な考察を十分に行うことができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はこれまでに開発した変位MMGの多点計測技術を用い,(1)羽状筋等,筋線維走行方向が複雑な骨格筋の二次元的な収縮様相(伝搬)を可視的に明らかにし,(2)スポーツ科学などへの適用例として,エルゴメータ運動などによる一過性の筋疲労を与えた場合,また筋力トレーニング等を行った前後での二次元的な筋収縮様相の変化を捉え(筋電図も同時に計測),(3)本法を神経・筋疾患に伴う運動神経の消失や再支配.高齢者や術後患者の廃用性筋萎縮の評価などに適用する場合の最適な評価法について検討を行う。以上の結果をまとめて,「変位筋音信号と筋電位信号を用いた筋の二次元収縮様相の解明」の研究を総括する。今年度は新たに研究分担者2名を加え,さらに昨年度同様,連携研究者4名の協力を得ることによって上記実験・研究の実施体制を盤石なものとする。
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