Research Abstract |
各国の科学アカデミーが近代史において名誉職機関と化していったのにたいし,ロシア/ソ連邦/ロシア科学アカデミーは現在にいたるまで,傘下に多くの学術研究機関を集めることで,一国の研究活動全般の展開に圧倒的な影響力を発揮する特有の組織となった.この科学アカデミーの近現代ロシア史上における役割,組織,社会的・政治的なありようを分析することは科学社会学・科学技術史の重要な研究課題である. 研究にあたっては,現地で収集した文書記録類(公文書,ドキュメント等),および文献(書籍論文等)を資料として,それらを読むことを通じて史実を再構成する,いわゆる文献実証の方法を採用する.このため,研究代表者の市川,研究分担者の梶,研究協力者の藤岡毅(同志社大学・嘱託講師),金山浩司(日本学術振興会・特別研究員PD),齋藤宏文(東京工業大学・教育工学開発センター・特任助教),をモスクワ,サンクト=ペテルブルク,およびノヴォシビルスクに派遣し,それぞれ当地の科学アカデミー文書館などで資料調査に従事せしめた. 2012年2月にはロシアから生物学史で顕著な業績を有するエドアルド・I.コルチンスキー氏,キリル・O.ロシヤーノフ氏を招き,日本科学史学会生物学史分科会と共同で東京工業大学を会場に大規模なシンポジウム「ルイセンコ事件再考」を開催した(約60名参加).また,北京の清華大学科学・技術与社会研究所において,研究代表者の市川はセミナーを開催し,当地の科学史家との研究交流につとめた. 昨年度に引続き,年度末に1年間にわたる研究成果(の一部)を取りまとめ,本研究独自の論集として刊行した(『"科学の参謀本部"-ロシア/ソ連邦/ロシア科学アカデミーの総合的研究-(平成22~24年度日本学術振興会科学研究費補助金[基盤研究(B)]研究成果中間報告)』Vol.2).同論集には,研究協力協定に基づき,数名のロシア人研究者からも寄稿していただいている. ※実名記載については全員了承済み.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の目標であった,年1冊の研究論集の編集・刊行,海外からゲストを招聘してのシンポジウム・セミナーの開催などに加え,現地ロシアの研究者との学術交流がすすみ,第2年にして,今後の発展方向を協議するまでにいたっていること,われわれの研究に関心をもった出版社と将来の研究書編集・刊行につき意見を交換するにいたったこと,国内のロシア史研究者との交流がすすんだことなど,予想を超えるひろがりがうまれてきたため,このように判断している.
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の変更,特段の対策を要する問題点はなく,研究活動は順調に進捗している.そのうえで,最終年度となる来年度は以下のような計画を立てている:(1)本年6月にウィーンで開催されるルイセンコ問題国際セミナーに研究協力者を2名派遣し,研究成果の発表にあたらせる.(2)4~5名で9月にモスクワなどを訪れ,引続き史料収集にあたる.(3)10月6日に京都において,海外からゲストを複数招き,大規模なシンポジウムを開催する.(4)年末には研究論集No.3の編集作業にはいり,2013年2月にも刊行する.(5)年度末に研究成果を1冊の研究書にまとめあげる計画を作成する.以上.
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