2011 Fiscal Year Annual Research Report
全国地質Sr同位体比マッピング-古代における"もの"の移動の解明に向けて-
Project/Area Number |
22300308
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
南 雅代 名古屋大学, 年代測定総合研究センター, 准教授 (90324392)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
淺原 良浩 名古屋大学, 大学院・環境学研究科, 助教 (10281065)
宮田 佳樹 年代測定総合研究センター, 非常勤研究員 (70413896)
太田 充恒 独立行政法人産業技術総合研究所, 研究員 (30356638)
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Keywords | Sr同位体比 / 地球化学図 / 河川堆積物 / 骨 / エルサルバドル |
Research Abstract |
1.昨年度までにSr同位体分析を終えている九州地方・四国地方・中国地方以外の全地域の河川堆積物に対して分析を行い、Sr同位体比を用いた古代人やものの移動に関する研究の基礎データベースとなる"地質Sr同位体比マップ"を完成させた。Sr同位体比はその背景となる地質の分布に大きく左右され、中央構造線を境に東北日本では一様にSr同位体比が低く、西南日本では対照的に高低複雑な値を示し、特に、中部地域において高いSr同位体比を示すことが明らかになった。これは、西南日本から東北日本へのものの移動に関する有益な情報がSr同位体比から得られる可能性を示しており、意義のある結果となった。一方、Pb同位体比の分析の有用性の検討も行った。 2.中国地方・四国地方・近畿地方の河川堆積物から得られたSr同位体比結果をSr、Rbなどの元素の定量値、および地質の流域解析データと照らし合わせながら総合的に解釈し、論文を投稿中である。また、これらの地方に認められる帯状のSr同位体比変動の連続変化を詳細に捉えることを目的とし、瀬戸内海の島々において、河川堆積物の採取を行ない、52元素の化学分析を行なった。 3/植物中のSr同位体比が、生育場の土壌・水、周辺の河川堆積物・水のSr同位体比と一致するかを調べた。その結果、土壌や河川堆積物中の交換性SrのSr同位体比と一致し、全(バルク)SrのSr同位体比とは少し異なることがわかった。このことから、植物中のSr同位体比は、周辺地質の交換性Srを取り込んでいることが明らかになった。 4.本研究の方法論をエルサルバドルの遺跡から出土した人骨に適用した結果、チャルチュアパ遺跡の先古典期から古典期の社会変化の背景に外部出身者が関与した可能性が低いことを指摘した。また、時期は後古典期だが沿岸部人骨に移動を示唆するデータも得た。これらの結果を論文にまとめ、現在査読中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、昨年度の繰越金分で、1年を通じて技術補佐員を雇用できたため、河川堆積物の分析が予定以上に進み、分析試料採取密度は低いものの、全国版の"地質Sr同位体比マップ"が作成できた。植物と生育場の土壌、周辺の河川堆積物のSr同位体比の関係性についても、予定通り研究が進んだ。しかし一方で、共同研究者の太田氏の研究室が東日本大震災で被災したため、復旧に時間がかかり、論文作成のための時間を十分にかけることが難しく、予想以上に時間を費やした。
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Strategy for Future Research Activity |
Sr同位体比を用いた古代人やものの移動に関する研究の基礎データベースとなる"地質Sr同位体比マップ"としては、河川堆積物の全Srよりも交換性SrのSr同位体比が適当である可能性が示されたため、今後、交換性SrのSr同位体比も測定していく。河川堆積物の全SrのSr同位体比変動の連続変化を詳細に捉えるため、瀬戸内海の島々における河川堆積物の採取を引き続き行なう。また、Pb同位体比も、ものの移動に関する有用な指標となる可能性が提示されたため、Sr同位体比に加えて、河川堆積物のPb同位体比の測定を試み、複合的に古代人やものの移動に関する研究を進めていく。その他、今後は特に、これまで得られた結果を公表していくことを推進していく。
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Research Products
(8 results)