2010 Fiscal Year Annual Research Report
文化財修復材料の劣化と文化財に及ぼす影響に関する基礎的研究
Project/Area Number |
22300312
|
Research Institution | Independent Administrative Institution National Institutes for Cultural Heritage Tokyo National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
早川 典子 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存修復科学センター, 研究員 (20311160)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川野邊 渉 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存修復科学センター, 副センター長 (00169749)
藤松 仁 信州大学, 繊維学部, 教授 (80021179)
坪倉 早智子 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存修復科学センター, 客員研究員 (20571350)
本多 貴之 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存修復科学センター, 客員研究員 (40409462)
|
Keywords | 文化財 / 修復 / ポリビニルアルコール / 酵素 / 白化 |
Research Abstract |
平成22年度には、ポリビニルアルコール(PVA)の劣化の再現と、絵画上に使用されたPVAの除去方法に関しての研究を開始した。PVA劣化の再現には、紫外線による強制劣化をおこなった。厚さ20-30μmのPVAフィルムに185nmの紫外線を照射した。185nmの紫外線灯は、わずかにオゾンを発生することもあり、酸化劣化と思われるPVAの白化の再現を行いやすいと考えられたため、使用した。この波長での照射後に高湿度下にPVAを置くことでPVAの白化が再現されることが確認された。 このPVAの表面を本年度購入した高倍率のマイクロスコープにより観察することで、白化現象が表面のマイクロ構造の変化により乱反射が上昇して発生していることがつきとめられた。今後、このような現象が顔料の存在や他の樹脂との併用(実際の修復現場ではアクリル樹脂とPVAの併用が多い)によりどのように影響を受げるかについても検討する必要がある。そのため、実際に使用されたPVAの観察や試料採取を行うため、京都府の二条城障壁画や大阪府の四天王寺所有聖徳太子絵伝の調査を行った。 絵画上に使用されたPVAの除去方法については、酵素の使用を検討した。PVAはもともと有機溶媒には溶解せず、絵画上で劣化したものは水でも溶解しにくいため、除去は非常に困難と言われてきた。本年度は、大阪市立工業研究所が所有するPVA分解酵素を使用して絵画上のPVAの除去可能性について検討した。劣化させたPVAに酵素を作用させ、GPCを用いて分子量現象を確認した。また、粘度の低下も確認された。これらの結果から、PVAの除去可能性が高いと思われたため、実際に即し、彩色した紙本の日本画にPVAを塗布し、劣化させたサンプルを作成し、酵素による除去を試みた。その結果、従来はほとんど除去できなかったPVA表面が容易にやわらかい塗膜になることが確認された。 次年度以降は、実際の作品上で生じたPVAの劣化機構の解明と、酵素による除去の修理現場での活用を行う予定である
|
Research Products
(3 results)