2012 Fiscal Year Annual Research Report
文化財修復材料の劣化と文化財に及ぼす影響に関する基礎的研究
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22300312
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Research Institution | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
Principal Investigator |
早川 典子 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存修復科学センター, 主任研究員 (20311160)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川野邊 渉 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化遺産国際協力センター, センター長 (00169749)
本多 貴之 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存修復科学センター, 客員研究員 (40409462)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 文化財 / 修復 / ポリビニルアルコール / 酵素 / 白化 |
Research Abstract |
平成24年度は劣化したポリビニルアルコール(PVA)の化学構造の解析と、PVA分解酵素の適用についての検討とを行った。 1)オゾンランプを用いて劣化させたPVAの構造解析 PVAの劣化は前年度までの研究によりオゾンランプを用いることにより、現実の劣化に近い状態を再現することを確認していたが、照射はPVA膜の片面からのみ行うため、NMRなど化学構造分析を行う試料としては試料の均一性に劣っていた。今年度は、50μmのPVA薄膜に両面から照射することで均一な試料を得ることに成功し、FT-IR、NMR、py-GCMSを用いて構造解析を行うことができた。カルボニル、アルケン、エーテル結合の増加が確認され、現場で確認される劣化PVAの不溶化現象の原因としてこれらの変化が関与していることが明らかとなった。次年度は、実際の修復で多く見られる、アクリルエマルションとの併用試料について、物理的な変化を中心に分析を行う予定である。 2)PVA分解酵素の文化財修理への適用について 大阪市立工業研究所より提供を受けているPVA分解酵素について、今後の大量生産を目的として冷凍保存されていた産生菌の培養を行い、本年度は15ℓの培養に成功した。酵素活性の発現も確認されている。この成果をもとに次年度では、安定した酵素の供給を目的に企業などとの提携を検討する。 また、PVAを使用されたと思われる文化財に貼付されたラベルにこの酵素を適用し、剥離について良好な結果を得られた。次年度以降、このような多様な使用状態についても現場適用を検討していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究計画は、PVA分解酵素の生産技術の確立と、オゾンランプによる劣化PVAの化学構造解析を目的とした。冷凍保存されていた産生菌の菌株から、活性の高い菌を得ることができたため、次年度以降、より大きなスケールでの生産が可能となった。この結果、今後、実際の修復現場での利用が広範囲で可能となる。 また、オゾンランプを用いた劣化試料の化学構造分析も試料作成方法を改良することで行い、強制劣化による分子レベルでの変化を確認できた。さらに、湿度変化による物理現象が白化を生じていることが、昨年度までの結果に加えて再現された。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度以降は、劣化再現試料として、PVAとアクリルエマルションとの併用による影響の確認を行う。実際の文化財修復においてはこの2種類の樹脂の併用は非常に多く見られ、白化に影響していると予想される。劣化に伴う化学構造の解析を行うとともに、劣化で生じた物理現象も併せて確認することで、現場での劣化現象の解明を行う。 また、PVA分解酵素の、より大きなスケールでの生産技術の確立を目指す。この成果をもとに、文化財修復現場での具体的な適用方法や適用条件の検討を行う。
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