Research Abstract |
小胞体内腔に存在する酵素protein disulfide-isomerase(PDI)が一酸化窒素(NO)の標的になることを明らかにした.この反応においてNOはPDIの触媒部位に存在するシステイン残基チオール部に結合(S-ニトロシル化)する事実を証明した.さらに,PDIは水銀によっても触媒部位が直接修飾され,酵素活性を失うことがわかった.一方で,メチル水銀投与によって脳内でNO産生が上昇することが報告されていることから,PDIのニトロシル化の有無を検討した.その結果,以下のような成果をあげることに成功した. ラットに非常に低濃度のメチル水銀を20ppm,4週間経口投与し,水俣病モデルを作成した.このラットの脳を部位分けし,S-ニトロシル化PDI(SNO-PDI)形成を調べたところ,小脳においてわずかながら時間依存的なSNO-PDI形成が検出された. 本モデルにおいてメチル水銀処理では小脳のみが特異的に傷害を受けることが知られている.SNO-PDIが小脳のみで観察されたこと,ならびに,神経細胞死に先んじて起こることから,メチル水銀の毒性発揮には一酸化窒素合成酵素を介したNO産生が関わること,ならびに産生したNOが神経細胞に作用し,小胞体に存在するPDIをSNO化し,酵素活性を負に調節している可能性が示唆された.この反応が起こる際に,小胞体内では未成熟蛋白質が蓄積することで小胞体ストレスが惹起されて,神経細胞死に連関することを明らかにしてきている.そこで,本当に水銀あるいはNOが脳においてPDIの酸化に起因した小胞体ストレスが惹起されるのか否か,遺伝子改変モデルマウスを使用して解析する予定である.さらには,水銀の結合部位をMASS解析し,直接的な証明を試みる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画した研究に関しては順調に進捗し,その成果をすでに英文原著論文としてProc.Nat1.Acad.Sci.USAに研究代表者と分担者が責任著者として報告している.さらに,モデル動物を使用した研究に着手しており,より直接的な成果が得られつつある.
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