2012 Fiscal Year Annual Research Report
凝縮相上の燃え拡がりと消炎に及ぼす重力作用の解明と宇宙環境での最適消火法の提案
Project/Area Number |
22310098
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
伊藤 昭彦 弘前大学, 理工学研究科, 教授 (30127972)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鳥飼 宏之 弘前大学, 理工学研究科, 准教授 (50431432)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 低重力環境 / 宇宙火災 / 凝縮相 / 燃え拡がり / 拡散火炎 / 落下塔実験 |
Research Abstract |
浮力によって誘起される流れに燃焼特性が強く影響を受けるプール火炎について,重力の大きさを変化させて研究を行ってきている.特に,これまで酸化剤である空気の流れを可視化し,火炎面への酸素供給に対する重力の影響を検討してきた.その結果,通常重力場から低重力場に変化したときの火炎高さの減少は,重力変化による浮力の低下と伴に拡散火炎面に法線方向から流れ込む空気流の流速が低下したことに起因していると考えられた.ただし,重力減少に伴う燃料側の流れの変化も火炎高さの減少に影響していると考えられる.そこで燃料側の流れに微小な固体粒子を添加しレーザーシート光で可視化することで,液体燃料表面上に形成される燃料気体の循環流を観察した.この燃料気体の循環流は通常重力場においても低速の流れであり,低重力場では更に流速が低下するため,その流れへの粒子添加は簡単ではなかったが,可視化に成功した.そして,その循環流領域の大きさは,重力値が低下するのに伴い減少することがわかった. 他には,プール火炎のパッフィング現象への重力作用の影響についても検討した.その結果,パッフィング現象が生じ始める容器直径は,重力の低下と伴に増加することを明らかにした. 更には,ろ紙上を伝播する火炎の火炎構造に対する重力の影響を検討するために,燃え拡がり火炎の火炎基部近傍の流れをPTLS法により可視化し,速度ベクトル図を構築する方法を確立した.これまで,可燃固体表面上に形成される境界層火炎に対して,それを多孔質バーナなどで模擬した定在火炎に対する速度測定は行われてきているが,非定在の燃え拡がり火炎に対して行われている例はほとんど無い.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は凝縮相上で形成される燃焼現象への重力作用の影響を解明し,また月面や火星などでの宇宙火災に適した消火法についても検討することを目的としている.これまでに,凝縮相の燃焼としてプール火炎そしてろ紙上の燃え拡がりについて検討してきた.特に,プール火炎の火炎構造の重力減少に伴う変化は,弘前大学に建設した落下塔による実験でも十分検討することができている.これは気相での燃焼現象が重力値の変化に対して0.3秒程度で追従するため,試験時間が約1秒間の本研究の低重力落下塔でも,充分に現象の検討が可能であることを意味している.また,重力値が低下した環境では,当然浮力によって誘起される流速が小さくなり,火炎の安定性を決定する火炎基部近傍の流れも非常に低速となる.そのため,流れの可視化や流速測定のための固体粒子の添加が簡単ではなくなるが,これまでにプール火炎の酸化剤流れ,また燃料気体の循環流,そしてろ紙上を燃え拡がる火炎の火炎基部近傍の流れ場への粒子添加に成功し,また流速測定も可能となっしている.このように落下塔を用いて低重力環境での燃焼現象を定性的に検討するのと同時に,速度などの定量的なデータの取得方法も確立してきており,研究計画はおおむね順調に進展しているといえる.また低重力環境での消火法については,通常重力場において幾つかの消火法を検討してきている.一つは,ウォーターミストを用いた水損・汚損などの消火による二次被害が少ない消火法である.また,シャボン玉などの液膜によって不活性ガスを閉じ込め,これを火炎へ輸送して破裂させることによって消火ガスを火炎に供給するカプセル消火法についても検討してきている.これらの消火実験についても,まだ通常重力場ではあるが,着実なデータの蓄積を行っており,消火法の検討についても,おおむね順調に研究計画は進展していると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
プール火炎への重力作用の影響では,周期的な火炎高さの変動を生じるパッフィング現象について注目し検討を行う.このパッフィング現象で測定される火炎の変動周期については,浮力と慣性力との比を表すフルード数で統一的に整理されることが,通常重力場や過重力場を用いたこれまでの研究で明らかにされている.そして,弘前大学の落下塔で行った低重力環境で生じるパッフィング現象も,過去の研究と同様にフルード数を用いることで,その変動周期を整理することができた.しかし,このパッフィング現象がどのような条件で生じ始めるのかという臨界条件については,これまでの研究からは明らかになっていない.そこで,プール火炎を形成する容器径,つまり代表寸法をを細かく変化させ,また重力値も変化させて実験することで,パッフィング現象が生じる臨界条件とそのパッフィング現象の発生メカニズムについて明らかにする.また,固体表面上を燃え拡がる火炎については,低重力環境での火炎基部近傍の流れ場をPTLS法によって明らかにし,燃え拡がり現象への重力作用の影響を明らかにすることを試みる.更に,消火法についてはシャボン玉を用いたカプセル消火に注目し,低重力環境での消火実験を行い,各消火ガスの消火効果に対する重力作用の影響を明らかにすることを試みる.
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