2013 Fiscal Year Annual Research Report
文学研究の「持続可能性」―ロマン主義時代における「環境感受性」の動態と現代的意義
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22320061
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
西山 清 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (00140096)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
植月 恵一郎 日本大学, 芸術学部, 教授 (10213373)
川津 雅江 名古屋経済大学, 法学部, 教授 (30278387)
吉川 朗子 神戸市外国語大学, 外国語学部, 准教授 (60316031)
小口 一郎 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 准教授 (70205368)
金津 和美 同志社大学, 文学部, 准教授 (90367962)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 環境感受性 / エコクリティシズム / ロマン主義 / 動物愛護 / 食育 / 持続可能性 / 郊外 / 文学観光 |
Research Abstract |
平成25年度の研究は、以下に示す4トピックに収斂する成果を生み出した。また同年度には、オープンセミナーおよび公開シンポジウムを開催し、研究成果を広く公開するとともに、他領域を含む多くの研究者と研究交流を実施した。これらの成果により、最終26年度における研究の完成へ向けてのロードマップを、25年度においてほぼ具体化することができた。 (1)【動物愛護の思想とジェンダー論】動物に対するロマン主義時代特有の感受性を示す作品を蒐集しつつ、ロマン主義哲学と有機体論の観点、ジェンダーの観点、および菜食・肉食の思想にかかわる「食育」の観点から分析を試みた。(2)【資源・持続可能性・環境倫理】T. R. Malthusの『人口論』を手がかりとして、資源と消費のアンバランスについての意識が持続可能性の倫理的感受性を生み出すことを指摘した。(3)【文学観光と環境感受性】ロマン主義時代以降の文学観光が、環境感受性を国民的スケールで涵養した歴史的プロセスの考察を続け、この感受性教育におけるWordsworth兄妹の作品の位置づけを遡及的に分析した。(4)【緑の治癒者としての郊外】住環境の急速な都市化にともない、自然環境が人間精神の疲弊に対して治癒力を発揮すると認識されるようになった経緯を、18世紀からロマン主義時代、および現代の環境文学の両面において読み解いた。 上述のように、25年度は他領域の研究者を招いたオープンセミナー(於、神戸市外国語大学)、および本研究メンバー全員が参加した公開シンポジウム(於、早稲田大学)を開催し、研究交流、研究成果の統合化、研究知見の発表と普及に努めた。特に公開シンポジウムは詳細な『予稿集』を準備したうえで、上記の研究内容1~4を反映した包括的なものとなり、26年度における研究の総仕上げの礎を築くことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2014年現在、環境問題はその緊急度をいよいよ増し、地球環境と人間社会・文化のかかわりは、学術のすべての分野で今後さらに真剣に追求されるべきテーマとなっている。本研究は「環境感受性」というキー・コンセプトを提案し、この概念の萌芽をイギリス・ロマン主義に探ることで文学研究に新たな現代的意義をもたらすことを目的としたものであり、学術および社会の両面にかかわる意義を有したプロジェクトである。 過去4年間の研究においては、環境感受性の原型をロマン主義哲学の中に探る試みを行い、現代の環境思想をロマン主義の流れの中に位置づけた。そしてこの知見を基礎として、ジェンダーとマイノリティーから見た動物愛護の感受性、環境感受性の国民的レベルの教育を文学観光が実現したこと、農民文学・農耕詩における環境意識の問題、人口論と環境倫理、都会人が「郊外」に求めた環境的治癒など、関連する複数の文化現象を、環境と感受性という視座から統一的に分析することに成功してきた。 これらの成果は、文学および文化事象の意義を把握することに資するばかりか、文学研究が、現代の文化・社会に対して価値ある貢献をする潜在力をもつ学術的営為であることも、同時に証明しつつある。 こうした研究の展開は、当初の研究目的と計画を大きく逸脱することなく、環境感受性の系譜と動態、そしてその現代的意義をおおむね順調に明らかにしてきている。研究発表の実績においても、これまでに(長文の書評論文を含む)論文40本(うち外国語によるもの11本)、口頭発表が27件(うち招待講演8件、海外での発表・講演6件)、関連する図書の刊行9点を数える他、一般向けの公開講座などにもその成果を生かしてきた。このように成果発表、および成果を通した社会的還元という点でも順調に推移していると言える。 以上の観点から、本研究の達成度を「おおむね順調に進展」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、平成26年度の一年間で、全5か年の研究計画が終了となる。そのため過去の研究経過を振り返り、その実績を十分吟味したうえで、26年度内に達成可能であり、かつ有意義な研究計画を策定する必要があった。この目的のため、最終年度の集中研究項目として4つのテーマを選び出している。26年度は、これらのテーマに沿って研究を進めつつ、研究成果を文書化・データ化してもちより、それ以前の4年間の研究実績に照らしながら最終的な成果としてとりまとめていく計画である。 集中研究項目は以下の通り。(1)「動物愛護―ロマン主義哲学とジェンダー論の観点から」(担当:植月、川津、直原[研究協力者])、(2)「持続可能性と環境倫理」(担当:西山、小口)、(3)「ポピュラーカルチャーと環境感受性」(担当:吉川、植月)、(4)「『郊外』の環境的治癒力―18世紀から現代へ」(担当:大石、金津)。 各項目の担当者は自らのテーマを追求しながら、他の項目をレビューする役割を担い、テーマ同士の有機的な連関を担保する体制をとる。また、研究体制をより強固なものとするため、項目(1)の哲学的側面の研究には、従来通り早稲田大学より直原典子氏に研究協力者として参画いただくことになっている。さらに項目(4)の研究を十全に展開するため、東京大学の大石和欣氏が研究分担者として新たに参加することになった。研究プロセス全体は、研究代表者である西山清によって最終的に統括される。 また、個別研究項目の達成状況を可視化し、研究プロジェクト全体を統合化するため、本年度までの5年間の研究成果を包括的に反映した報告書形式の研究論集を作成し、公開することを計画している。26年度の研究が完了した後、この報告書に対しての反応を慎重に検討し、内容を再吟味、必要な修正・加筆を施したうえで、将来さらに本格的な研究書の形で刊行することも構想している。
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Research Products
(16 results)