Research Abstract |
本研究は,自然保護区の保全と利用をめぐる諸問題について,日韓のラムサール条約湿地を取り上げて論じることを目的としている。初年度においては,(1)先行研究レビューによる論点整理,(2)日本のラムサール条約湿地に関する情報収集,(3)日本国内の登録湿地に関する事例調査(未登録湿地についても比較のための調査),(4)韓国の登録湿地に関する事例調査(未登録湿地含む)を行うことを計画した。研究メンバー全員での事例調査として,8月に韓国ウポ沼,シファ湖,セマングム湖,2月に琵琶湖,3月に蕪栗沼・化女沼・伊豆沼での現地調査を行った。また,1月には,アジアのラムサール条約への対応などについて,ラムサール・センター・ジャパンで聞き取りを行った。その他,メンバー各人でも,中海,宍道湖,琵琶湖,屋久島永田浜,霞ヶ浦,球磨川水系などで調査を行ったほか,衛星写真や古い地形図などを用いた湖沼の分析などを行った。 初年度でもあり,ラムサール条約湿地の保全と利用をめぐる議論の全体像を把握することと,各現場レベルでの受け入れられ方や対応の違いなどを調べ,次年度以降の調査ポイントを絞り込むことに力を入れた。その結果として,ラムサール条約に基づく環境管理の考え方が,応用生態学的な志向性の強い韓国と,周辺住民への配慮意識の強い日本とで,差がありそうだということ(一方で保護区ではない湖沼において,環境対策を環境対策として行う日本と,開発志向の強い韓国との差もあること)が論点になること,また,日本国内においてラムサール条約登録の線引き(実際には鳥獣保護区特別地区の線引き)が各湿地の地域事情によって大きく異なることが明らかになった。 そして,来年度以降,これらの論点について,より焦点を絞った調査を行う必要があることを課題として認識することができた。
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