Research Abstract |
本研究は,自然保護区の保全と利用をめぐる諸問題について,日韓のラムサール条約湿地を取り上げて論じることを目的としている。本年度は,(1)先行研究レビュー,(2)日本のラムサール条約湿地に関する情報収集,(3)日本国内の登録湿地に関する事例調査(未登録湿地についても比較のための調査),(4)韓国の登録湿地に関する事例調査(未登録湿地含む)を行うことを計画した。メンバー全員での事例調査として,8-9月に韓国のウポ沼,コンガン池,スンチョン湾,2月に豊岡市での現地調査を行った。また,随時研究会を行い意見・情報交換をした。その他,メンバー各人でも,中海・宍道湖,琵琶湖,霞ヶ浦,佐渡,長良川河口,諏訪湖,諌早湾,韓国のナクトン江,シファ湖などで調査を行ったほか,衛星写真や古い地形図などを用いた湖沼の分析,全国の登録湿地所在地を対象とした自治体アンケートとNPO等アンケート調査などを行った。 初年度に引き続き,ラムサール条約湿地の保全と利用をめぐる議論の全体像を把握することと,各現場レベルでの受け入れられ方や対応の違いなどを調べた。その結果として,初年度に明らかにした,ラムサール条約に基づく環境管理の考え方が,応用生態学的な志向性の強い韓国と,周辺住民への配慮意識の強い日本とで差があること,日本国内においてラムサール条約登録の線引きが各湿地の地域事情によって大きく異なることを更に確認するとともに,本年度のポイントとして,ラムサール登録地となることの観光的価値あるいは観光化への地元の期待・対応に関して日韓で大きな差があることを明らかにした。日本でいえば世界遺産化と観光化の関係が,韓国ではラムサール条約登録でも認められ,観光化が進むことが湿地の保全・利用策に反映されることを明らかにできた。 そして,来年度以降,これらの論点について,より焦点を絞った調査を行う必要があることを課題として認識することができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日韓各地の湿地の保全・利用に関する情報を広範に集めるという点では,調査地が,申請書にあげた湿地と若干異なるものの,韓国のウポ沼,スンチョン湾,中海・宍道湖,豊岡市という主たる調査地での調査を行うことができたし,調査地点数でいえば申請書にあげた以上の場所での情報収集を行うことができた。一方で,初年度に手をつけられなかった全国自治体等アンケート調査も行うことができた。これらの情報を得たことによって,申請書に記した研究目的にあげた現実論としての自然の保護と利用に関する議論の再構築に向けた知見を得られた。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度が最終年度にあたり,研究の取りまとめをはじめなければならない。研究成果について成果を論文化していくことになる。いくつかについては執筆準備に取りかかっている。また,本研究では日韓のラムサール条約湿地の広範な情報を得られているため,学術論文とは別に一般書などによる成果の発表ができないか,検討を始めている。一方,現地調査についてもまだ十分とはいえず,特に韓国の一大観光地化しているスンチョン湾や,日本国内で本メンバーでは未調査である北海道の湿地,大都市湾岸部の湿地についての情報も集める必要がある。これらについての現地調査を次年度は行うつもりである。
|