2011 Fiscal Year Annual Research Report
東南アジアにおける人の移動と帰還移民の再統合に関する社会人類学的研究
Project/Area Number |
22320175
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
伊藤 眞 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 教授 (60183175)
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Keywords | 文化人類学 / 移動 / 家事労働 / 海外研修生 / 帰還移民 / 出稼ぎ移民 / エスニックメディア / インドネシア |
Research Abstract |
今年度は、日本、韓国、中国、台湾、香港、シンガポール、マレーシアなど東南アジア・東アジアを中心としたインドネシア系移民(労働者/留学生を含む)の受入国における移民の組織化に着目して調査を実施した。伊藤及び連携連研究者計9名は、(1)移民労働者支援組織、(2)インドネシア系移民組織、(3)移民労働者のエンパワメント活動の3点について重点的に聞き取り調査を行うとともに、資料収集をそれぞれの地域で進めた。 現在、海外に向かうインドネシア人労働者の過半数は女子労働者であり、とりわけ、香港、シンガポール、台湾では家事労働に従事する者が多い。これら3国においては、香港を筆頭に、労働条件(週休、最低賃金制など)が他国に比べて比較的保障されており、またそこではエスニックメディアの刊行も盛んである。とくに注目されるのは、女子労働者による文芸活動であり、エスニックメディアがそうした活動の場を提供している。香港では、女子労働者による詩作・エッセイ・小説などの執筆活動がとくに盛んであり、そうした創作活動は、彼女らの労働者としての意識向上など、自己啓発に大きく寄与していることがわかった。 一方、予算繰越により平成24年度にマレーシア・サバ州において移民調査を行った。同地域へのインドネシア移民の半数以上は、従来からの出稼ぎ型移民に基づくものであり、それは伊藤が10年前に調査した状況と比べてあまり変化が見られなかった。香港や台湾では、組合活動や創作活動を通して、女性労働者は自らの置かれた状況を改善すべく努め、自己解放の契機をつかみつつあるように思われるのに対して、隣国マレーシアにおいて、木材工場、プランテーション、建設現場などで働く男性労働者の場合は、同郷会を除けば支援組織はほとんど存在せず、孤立した状況の中で出稼ぎ労働を繰り返していることが本調査を通じて明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マレーシアについては異常気象による洪水のため、当初計画した年度内の調査を断念せざるを得なかったのが繰越申請をおこなった理由である。 マレーシアにおける調査目的は、海外へ向かう女性労働の流れと比較対照する意味で、男性移民の労働形態について資料収集をおこなうことであったので、調査時期が遅れたことは実質的に何ら問題とはならなかった。 繰越年度に実施した調査では、気象などの障害を被ることなく、むしろ、断食の時期に合わせて開催された移民2世の集会に参加することで、当初予想した以上の人々から聞き取り調査をおこなうことが可能となり、おおむね満足すべき成果を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
本調査研究は、東南アジアにおけるインドネシア系移民を中心とする人の移動、そして帰還移民の研究であり、その意味において、ほぼ当初の計画通り進行している。 最終年度としては、近年、指摘されているインドネシアの著しい経済成長という観点をより重視し、インドネシア経済の繁栄の中で、インドネシアの移民政策、あるいは帰還移民の位置づけがどのように変化していくかという点に留意して、継続調査を進める。
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Research Products
(10 results)