2011 Fiscal Year Annual Research Report
グローバル社会における法源論の再検討 -法学概論の書き換え―
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22330006
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Research Institution | Toin University of Yokohama |
Principal Investigator |
小川 浩三 桐蔭横浜大学, 大学院・法務研究科, 教授 (10142671)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
葛西 康徳 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (80114437)
新田 一郎 東京大学, 大学院・法学政治学研究科, 教授 (40208252)
守矢 健一 大阪市立大学, 大学院・法学研究科, 教授 (00295677)
松本 英実 新潟大学, 大学院・人文社会教育科学系, 教授 (50303102)
溜箭 將之 立教大学, 法学部, 准教授 (70323623)
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Keywords | 法源 / グローバル化 / テクスト / ミクスト・リーガル・システム / 法伝統 / 比較法 / 法史学 |
Research Abstract |
6月と12月に連携研究者も加えた全体研究会を行い、各自の成果を持ち寄り検討した。小川は日本の裁判例を分析し、法的論証・討論における条文、判決文(テクスト)の意義を、議論が彷徨わないための碇であり、その点で儀礼としての意味を持つことを強調した。葛西は、法学概論教科書の歴史的変遷と現状について報告した。法学の分野ごとに全般的に説明する「概論」と、法学方法論を中心に据える「入門」とに大別されるが、いずれもテクストについての問題意識が十分でないことが指摘された。新田は、東京大学教養額における法学部進学予定者を中心とする初年次教育の実践について、とりわけテクストを用いた教育について報告した。また、日本において「古典」がいかなるものとして考えられてきたか、そこにおける解釈のあり方についても報告し、ヨーロッパの古典解釈と対比する討論が行われた。守矢は、わが国の戦後の法学方法論研究を強く規定した来栖三郎の戦前・戦中の法解釈論を具体的な法制度に即して報告した。戦後の来栖は、一方では解釈の多様性とそれゆえの解釈者の責任を強調し、他方で条文・テクストの意義について深く思索したが、そうした契機がすでに戦前・戦中の実作の中に確認できた。松本は、世界におけるミクスト・リーガル・システムの研究動向について報告し、日本におけるその研究の可能性、法源論研究における意義について問題提起した。これは、狭い意味では大陸法とコモン・ローの混合あるいは融合の問題であるが、広い意味では異なる法伝統の移植・受容の問題でもある。移植される側、受容する側それぞれの問題が深められ、日本の状況(明治期、戦後)を分析する枠組みも提示された。溜箭は、アメリカにおける先例拘束性の原理について、一般的な問題として、また政教分離の判例に即して報告した。これとの関連で、連携研究員の山元が日本の政経分離について比較報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
グローバル化の中の法源論という課題については、順調に進んでいる。法源論におけるテクストの意味が明らかにされてきた。テクストが討論または論証における連結点として機能するという点では、条文であれ、判例であれ変わらない。また、法の普及・伝播(diffusion)という点からみると、オランダ法の南アフリカへの伝播、イングランド法のアメリカやインドへの伝播等の例から、受容可能性が格段に増すという点で、法学テクストの持つ重要性が明らかになった。これは、非常に広い比較可能性をもっている。他方、こうした法源論の深化を基礎とする「法学概論」の書き換えというテーマは、なおようやく緒に就いたところであり、今後精力的に推し進めてゆく予定である
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年5月末から6月初めにかけて、アメリカ合衆国ルイジアナ州トゥーレイン大学および南アフリカ共和国シュテレンボッシュ大学からミクスト・リーガル・システム研究を代表する3人の教授を招いて、集中的な研究会を開催する。これまでの研究を通じて得られた枠組みを用いた日本法の見方が、ミクスト・リーガル・システム論に対して寄与するものがあるのか、あるいは、この考え方に何らかの問題提起が可能か追及してみた。教科書の作成ということでは、以上の法源論、とりわけテクスト論の深化を踏まえながら、かつての人文・社会科学振興プロジェクト「教養教育の再構築」で培った成果・人脈をも利用しつつ、大学における入門教育あるいは教養教育としての法学概論の在り方について検討を進めてゆきたい。
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