Research Abstract |
本年度は,支配株主が存在する会社が,その経営状態が悪化した場合において,株主総会決議に基づき会社分割制度を濫用的に利用し,会社債権者等を害する実例が頻発したことを踏まえ,裁判例を中心に検討を行い,濫用的会社分割がなされる原因を分析するとともに,それに対する法的な救済方法を,解釈論および立法論のレベルで研究した。 分析の結果,濫用的会社分割がなされる直接的原因は,会社債権者保護のための事前的および事後的な会社法上の制度が脆弱であること,とりわけ,債権者異議手続きの範囲が限定されており,かつ,会社分割当事会社の連帯責任が,そのような限定的な債権者異議手続きと連動している点にあることを指摘した。 濫用的会社分割は,本研究の目的との関係で言えば,支配株主と会社債権者の利害が大きく対立する典型的ケースであり,詐害行為取消権による民法上の救済方法も利用可能であるが,偏頗行為を是正する観点からは,債権者取消権のとりわけ法的効果に関する現行の判例・通説を前提にすると問題点が大きいこと,また,市場全体の観点からすると,事後的に個別の訴訟で救済を図ることは,企業再編行為という多くの利害関係者が関与する法律行為については望ましくなく,最終的には会社法の改正によって解決を図るべき問題であると指摘した。その際,現行法の会社分割における分割当事会社の連帯責任は,債権者異議手続きを前提として構築されているが,両者をいったん切り離して,両者の連携にも留意しつつ,各々の適切な適用範囲を画してゆく必要があると指摘した。 もっとも,濫用的会社分割とはどのような場合かをある程度明確にする必要があること,本研究のテーマである企業経営に対するファンドの関わりとそれに対する法的評価等,多くの問題が残されていることが明らかになった。
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