2011 Fiscal Year Annual Research Report
金融危機の波及メカニズムと金融機関の資産選択行動:日米欧の比較実証分析
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22330068
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小川 一夫 大阪大学, 社会経済研究所, 教授 (90160746)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
得津 一郎 神戸大学, 大学院・経営学研究科, 教授 (80140119)
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Keywords | サブプライムローン / グローバル金融危機 / 貸出行動 / 不良債権 / コールレポート / 中小企業 |
Research Abstract |
本研究の目的は、2000年代のアメリカにおいて発生したサブプライムローンの不良債権化が世界的に波及したプロセスを金融機関の資産選択行動を視点にして実証的に解明することにある。平成23度は2つの方向において実証分析を行った。まず、平成22年度に構築された金融機関の資産選択行動モデルをアメリカの商業銀行を対象として実証分析行った。このモデルの大きな特徴は、証券化行動がどのような要因によって決定されるのかモデル化し、さらに金融機関の貸出行動が証券化によってどのような影響を受けるのか分析した点にある。金融機関の財務データを四半期ベースで提供しているCall Reportを用いて商業銀行の証券化行動、貸出行動を計測し、このモデルの検証を行った。その結果、貸出債権の証券化は、もっぱら大銀行によって信用リスクを移転する目的で行われ、証券化によって貸出が加速されるという貸出のスパイラルが観察された。また、証券化に積極的である銀行ほどバランスシートは毀損した。わが国における「失われた10年」時と比較することにより、金融革新に積極的に関与した金融機関ほど、貸出における審査機能が低下し、それが金融危機につながったととを明らかにした。 もう一つの研究では、グローバル金融危機においてわが国の中小企業が直面したショックを識別し、そのショックにどのような対応を取ったのか実証的に明らかにした。経済産業研究所が2008年と2009年の2回にわたって実施した「企業・金融機関との取引実態調査」に基づいて、中小企業を襲ったショックを識別し、どのような対応を行ったのか計量分析を行った。主たる結果は、最も頻繁に観察されたのは需要ショックであり、需要ショックに対して中小企業はあらゆる手段を講じてショックに対処したことである。また、中小企業が講じた対応策は企業と金融機関との関係に大きく依存していたことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
金融機関の資産選択行動という視点から、アメリカ発のグローバル金融危機が世界へ波及したメカニズムを明らかにすることが研究の目的であるが、すでに証券化という切り口でアメリカの金融機関の資産選択行動の変化をとらえ、わが国の中小企業への影響についてもその詳細を分析し、その対応における金融機関の役割を見た。今後は国際間におけるショックの波及についてその方向と大きさを計量的に把握することで目的は達せられる。
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Strategy for Future Research Activity |
国際間の産業連関表を用いることにより、金融的なショックが国際間で波及する態様を描写することができる。その際に留意すべき点は、金融部門の取り扱いである。産業連関表において金融部門で発生した不良債権をどのように定量化し、他の部門における生産活動とどのように関連しているのか、その点を定式化する必要がある。この定式化の下では、アメリカ発の金融危機が貿易を通じて他国に波及するプロセスを定量的に把握することができる。平成24年度は、金融機関と企業のパネルデータを用いて金融危機が企業行動に与える影響を分析するとともに、国際産業連関表を用いた危機の波及メカニズムの研究にも着手したい。
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Research Products
(8 results)