2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22330124
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
辻本 将晴 東京工業大学, 大学院イノベーションマネジメント研究科, 准教授 (60376499)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤村 修三 東京工業大学, 大学院イノベーションマネジメント研究科, 教授 (90377044)
|
Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 基礎科学知識創造 / 研究所 / マネジメント / 共鳴メカニズム / 非公式ネットワーク / ネットワーク分析 |
Research Abstract |
本研究は、企業組織の科学知識創造における研究者間の「共鳴メカニズム」に焦点をあてた比較分析を行っている。ここでの「共鳴メカニズム」とは、組織に所属する研究者と組織内外の研究者との相互作用のあり方を意味しており、次の3つの要素から構成される。第一に研究チーム組成、第二に異なる段階(基礎・応用)および異なる分野と組織の研究者間のコミュニケーション、第三に研究評価と成果公開のマネジメントである。我々は研究者間の相互作用によって科学知識創造が活性化されていると考えており、本研究はそのメカニズムの実証研究である。 平成24年度は分析対象として大手食品会社A社中央研究所を追加し、この研究所に対する集中的なインタビュー調査と書誌分析を行い、その結果についての学会発表を行った。その結果、インタビュー調査における構造化項目と書誌分析の技法がほぼ確立しその有効性が示された。具体的には、3要素がいずれも書誌分析と補完的に作用し、分析から有効な知見を導出できることが確認できた。また、書誌分析の技法もほぼ確立した。具体的には、技報、論文、特許の共著関係の2-modeネットワーク分析を時系列に分解したうえで、専門分野および公式に所属しているグループというタグを設定することで、分野及び公式組織を超えた非公式かつ多様な人的ネットワーがどのように組成されるか、そのネットワークが新たな分野の形成にどのような影響を与えるかを明らかにできることが確認できた。 A社中央研究所に対する分析から得られた知見とは、主に次の3点である。第一に分析対象時期に行われていた非公式ネットワーク形成がその後の新たな研究分野の開拓、事業の柱の形成に有効に作用していたことである。第二に、その非公式ネットワークが既存の分野枠組みを超えたものであったことである。第三に、その媒介となったのが数理や評価といった特殊な専門分野であったことである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究はおおむね順調に進展している。その理由は次の3点である。 第一に、内部的なアクセスが可能でデータの提供を受けることができた大手食品会社A社の中央研究所に対して本研究で想定していたインタビュー調査と書誌分析を具体的に実施し、有用な知見を導出することができたからである。これにより研究対象からどのような情報を収集し、どのような技法で分析するかについての検討を行う段階が終了し、対象を拡大する段階へ移行した。またこの成果を学会で発表することもできた。 第二に、A社の中央研究所の分析を経て、インタビュー調査と書誌分析という本研究における調査分析技法がほぼ確立したからである。具体的にはインタビュー調査の対象および構造化項目を確定した。また、書誌分析については技報、論文、特許の共著関係の2-modeネットワーク分析を時系列に分解したうえで、専門分野および公式に所属しているグループというタグを設定するという方法が確立した。 第三に、当初想定していた分析対象のうち、AT&Tベル研究所、IBM基礎研究所、トヨタ中央研究所からA社の中央研究所と同様のデータを入手し、分析する段階に入っているからである。現在、研究チームの中で日々分析が進展しており、新たな視点や知見の導出も十分期待できる。Intel Labs、Google R&D Centerについてはインタビュー調査を行った段階であるため、データセットを整備し分析を行う必要がある。 以上より本研究はおおむね順調に進展していると自己評価する。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策については次の3段階を想定している。 第一に、ほぼ確立した調査分析方法をAT&Tベル研究所、IBM基礎研究所、トヨタ中央研究所に適用した結果、暫定的ではあるが上記の知見を支持する、あるいは追加する知見が導出されつつあるため、これらの成果を早期にとりまとめて発表することである。第二に、Intel Labs、Google R&D Centerについても追加的なインタビュー調査を行うとともに、書誌分析の取り組みを開始する。第三に、可能な範囲で追加的な分析対象を確保したうえで、これらの成果をとりまとめて学会発表および書籍として出版する。 本研究における課題とその対応策は次の2点である。第一に、インタビュー調査をマネジメント層および研究者に行う必要があり、特に研究者に対するインタビュー実施に困難が伴う場合がある。そこで、以前調査対象となった研究所に勤務していた人で、なるべく最近まで勤務していた人に対するインタビューで補完するものとする。特に外資系の研究所の場合はこの対策が必要となる場合がある。第二に、書誌分析における内部的な技報および所属に関する情報の入手に限界があることである。この場合はまずは公表されている論文、特許の共著関係からのネットワーク分析を試み、事後的に当該研究者の情報を別途収集することを試みている。あるいは中間段階での分析結果を基に、各研究所に情報提供を求めている。
|