2012 Fiscal Year Annual Research Report
情報統合としての共感覚的認知に関する認知心理学的研究
Project/Area Number |
22330199
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
横澤 一彦 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (20311649)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 共感覚 / 情報統合 / 認知心理学 / 統合的認知 / 高次視覚 |
Research Abstract |
日本語の色字共感覚者の共感覚において、文字の音韻情報や意味情報が共感覚色の大きな規定因となることを明らかにした。たとえば、共通の部首を持つ文字間では共感覚色は類似せず、形態情報の影響は小さいことも示し、Consciousness & Conition誌に学術論文として掲載された。一方,共感覚者と呼ばれるごく一部の人に限定的に生じるとされてきたが、共感覚的傾向の強い人から弱い人までが連続的に分布している可能性があり、共感覚的な認知処理メカニズムが普遍的に備わっており、その働きの強さに個人差があると考えることができる。しかし、記憶の影響など、共感覚以外にも文字と色の対応付けの時間的安定性を左右する要因は考えられるため、真の意味で共感覚的傾向の高低が連続的に分布するという結論を導けるかは定かでない。そこで、文字と色の対応付けにおいて、時間的安定性の高低と、色字共感覚者の共感覚色に特徴的に見られる傾向の強さとの間に正の相関があるかどうかを調べた。文字と色を時間的に安定して結びつける人ほど共感覚者と同様の性質、すなわち文字と色の対応付けにおいて音韻情報や意味情報の影響を受けるという傾向を強く示すことが明らかになった。文字と色の対応付けの時間的安定性と形態情報の影響度の間には有意な相関は見られなかった。すなわち、単に文字と色が時間的に安定的に対応付けられるというだけではなく、対応付けの規定因という質的な面を考慮しても、共感覚的傾向は連続的に分布すると言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
共感覚が実は「ごく一部の人」のみに限定的に存在する訳ではなく、共感覚的傾向の強い人(=共感覚者)から(非共感覚者として分類されるが)中程度の人、弱い人までが連続的に分布していることを示している。このことは、働きの強さの個人差こそあれ、共感覚的な処理基盤が人間に普遍的に備わっている可能性を示すことができた。日本語の色字共感覚に関して言えば、文字と色を主に音韻や意味(概念)情報を介して結びつけるようなメカニズムが誰にでも備わっており、その結合強度、または結合における興奮/抑制のバランスに個人差があるという結論を導くことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
新たな実験パラダイムにより、色字共感覚に加えて、色聴共感覚の解明を進めることを計画している。色聴共感覚は、単音、和音、調など複雑な要因によって共感覚が生起していると考えられるので、色字共感覚との共通性なども考慮した上で、実験を進めたい。 また、共感覚者と非共感覚者という二分法的見方をとらず,共感覚的性向が連続的に分布しているという仮説を確かめる実験を進める。 このような実験研究に基づいた研究成果を積極的に発信することで、一般社会が共感覚を正しく認識するように引き続き取り組みたい。
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