2012 Fiscal Year Annual Research Report
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22340024
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
竹田 雅好 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (30179650)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 対称マルコフ過程 / 加法汎関数 / ディリクレ形式 / ファインマン・カッツ汎関数 |
Research Abstract |
強Feller性と既約性を持つ対称マルコフ過程に対して、そのレゾルベントにある種の緊密性を仮定すると、その生成作用素に対して基底(ground state)が存在することを以前の研究で示した。生存時間が有限なマルコフ過程には不変測度は存在しないが、時刻tまで生存しているという条件の下で長時間極限をとると、ある分布に収束する場合がある。その極限分布は準定常分布であり、Yaglom limitと呼ばれる。基底の存在は、我々の立場で準定常分布の存在を示すうえで第一歩となる。そのため、レゾルベントが緊密性を持つための十分条件を調べることが鍵となる。本年度の研究では、ランダムな時間変更によって定義されるマルコフ過程が緊密性を持つための十分条件として、「時間変更を定義する加法汎関数ないしは対応するRevuz測度がグリーン緊密性を持つ加藤クラスの測度である。」があることを示した。さらに、その応用として、加藤クラスの測度をポテンシャルに持つシュレディンガー作用素の基底の存在に関する十分条件を得た。基底の存在証明方法には、ソボレフ空間のコンパクト埋め込みに関するレーリッヒの定理の代わりに、ディリクレ形式の変分表現を用いたことに新規性があり、一般性にもその特徴がある。以上のことを示す過程において、このクラスの時間変更で強Feller性が保たれることを示した。時間変更は確率論的に定義することは簡単だが、対応する生成作用素は極めて特異なものが現れる可能性がある。したがって、対応する半群の解析的性質を導くことは一般に難しい。しかし、上に示した事実は、ランダムな時間変更を扱ううえで、加藤クラスの測度が十分扱いやすいクラスを与えていることを示しており、加藤クラスの測度に新たな視点を与えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
以前に示したFeynman-Kac汎関数の重みを持つ対称マルコフ過程に対するDonsker-Varadhan型大偏差原理は、Varadhanが定式化した大偏差原理とは異なるものであった。 しかし、 正規化することによりVaradhanの意味での大偏差原理とみなせることが分かり、それは不変測度からではなく基底からの大偏差と考えた方が自然な定式化になっていた。このことは、新たな拡張の可能性を示している点で興味深い結果である。証明の過程で、ディリクレ形式と一般化されたDonsker-VaradhanのI-functionの同定を行い、さらに、Schroedinger作用素の基底の存在と、大偏差原理におけるレート関数がその基底で唯一の零点をとることを示した。基底の存在から準定常分布の存在が分かるので、新たな研究テーマ「マルコフ過程の緊密性と準定常分布」に発展した。マルコフ過程の長時間極限を調べるうえで、その極限分布である準定常分布の存在を調べることは重要になる。そのために、上で述べたディリクレ形式とI-functionの同定が鍵となった。以上の結果は、連携研究者の田原喜宏との共著論文としてまとめられており、Osaka J. Math. より出版予定である。 LyonsとZhengは対称マルコフ過程の時間可逆性に注目して、エネルギー零の加法汎関数を時間前向きのマルチンゲールと時間後ろ向きのマルチンゲールを使って表現した。G. Trutnau(ソウル国立大)は、Lyons-Zheng の分解公式を非対称なマルコフ過程の場合に拡張した。本研究の目的の一つであるLyons-Zheng分解公式の非対称マルコフ過程の保存性証明への応用については、従来の判定方法が応用できないクラスの特異な非対称拡散過程に対して十分条件を得ることができた。これは、Trutnauとの共著論文として出版された。
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Strategy for Future Research Activity |
基底の存在を示す方法はディリクレ形式とDonsker-VaradhanのI-functionの同定を用いるアイデアに依っている。この同定をより一般な対称双線形二次形式の変分表現と言う形で拡張することで、このアイデアの可能性を追及する。そのためには、マルコフ過程のレゾルベントが緊密性を持つための十分条件を調べることが鍵となる。まず、確率論的な変換により構成されるリゾルベントに対して、緊密性を確認していく。Feynman-Kac半群、特に、Killingの場合には、準定常分布に関連して重要になる。 最近、飛躍型ディリクレ形式に付随する内在的距離を用いて、マルコフ過程の大域的性質が活発に調べられている。特に、グラフ上のマルコフ連鎖については、その保存性に関していくつかの興味深い論文が出ている。この方面の研究は連携研究者の塩沢裕一も行っており、プレプリントの段階ではあるが、既に研究成果をあげている。彼と研究連絡を密にとり、内在的距離の果たす役割につて研究を深めたい。 本研究課題の最終年度になるので、マルコフ半群のLp-独立性の応用について、現在までに得られている結果をまとめる。特に、基底の存在に関する話題と、再帰的な対称安定過程の半群と調和関数の性質に関するテーマへの応用に関して論文を仕上げる。基底存在に関しては、スペクトル関数の微分可能性、さらには加法汎関数の大偏差原理と深くかかわっており、連携研究者の土田兼治と研究連絡を密にする。
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Research Products
(4 results)