2012 Fiscal Year Annual Research Report
確率論的手法による測度距離空間上の解析学と幾何学の研究
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22340036
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
桑江 一洋 熊本大学, 自然科学研究科, 教授 (80243814)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
太田 慎一 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00372558)
桑田 和正 お茶の水女子大学, その他部局等, 准教授 (30432032)
石渡 聡 山形大学, 理学部, 准教授 (70375393)
塩谷 隆 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90235507)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ディリクレ形式 / 調和写像 / 劣調和関数 / 変分収束 / グロモフ・ハウスドルフ収束 / アレキサンドロフ空間 / 加藤クラス / 熱核 |
Research Abstract |
平成24年度は以下の研究をおこなった。 1. p-一様凸空間上の凸下半連続汎関数に対する勾配流(非線形半群)の構成に関する研究を行った。これはCAT(0)-空間ではUwe-Mayer 氏によってなされており、その拡張が Ambrosio-Gigli-Savare (AGS)による ETHの講義録「勾配流と最適輸送」の教科書でなされている。これら既存の勾配流の場合には縮小性が成立することが知られているが、今回構成された勾配流の場合はp-一様凸空間の凸性がCAT(0)-空間の凸性よりも弱いために完全な縮小性にならない形が特徴である。また上述のAGSの教科書では勾配流の特徴付けとして 発展変分不等式(EVI)が導出されており、それをもとに勾配流が半群の性質をもつことが示されている。今回の勾配流の構成ではEVIの成立は期待できないものの、半群性や弱い形での縮小性を得ることができた。勾配流は凸下半連続汎関数のレゾルヴェントのpに応じて変形されたYosida近似で表示できる。それをもちることでレゾルヴェントの収束から勾配流の収束をGromov-Harusdorff収束の一般化である漸近的関係という収束概念の言葉で得ることができた。これらは準備中の論文Variational convegence for convex functionals の一部にまとめる予定である。 2. 一般化されたファインマン・カッツ汎関数の測定可能性(Gaugeability)の研究を行なった。特にエネルギー0の連続加法的汎関数の項に加えて飛躍型の過法的汎関数の項も含めた一般的な状況で係数の条件を既存のものよりも弱い条件下で測定可能性の必要十分条件を与えることに成功した。また条件付き測定可能性についてもある条件の下で特徴付けを与えた。この研究は熊本大学の金大弘氏との共同研究である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
曲率がAlexandrovの意味で上に有界な値ををとる空間値写像の非線形なエネルギー汎関数に対する調和写像理論を確率論的に解析するのが当該研究の最終目標である。残念ながら、この点ではこの研究は完成にはほど遠い状況にある。現時点では離散マルコフ連鎖をもとにした結果をいくつか得て来たが、連続変数マルコフ過程を基礎とした調和写像の理論とその確率論的側面からの研究はまだまだ進展途上にある。とはいうものの24年度の研究では解析的方法からからp-一様凸空間上の下半凸汎関数の勾配流の構成に成功しており、p=2 のときにその勾配流をもとにした調和写像の存在と性質を確率論的に特徴付けできる足がかりを得たことになる。また分担者である塩谷隆氏は測度集中現象を用いてリーマン多様体の固有値の収束に関して一定の結果を得ることができている。桑田和正氏や太田慎一氏は N.Gigli 氏と共同で Alexandrov 空間上でエネルギーの勾配流としての熱流とワッサーシュタイン空間上のエントロピーの勾配流の密度が一致することを示しており。これを用いてAlexandrov 空間の熱核の局所 Lipschitz 連続性を導出している。この点では研究目標を達成してるとみなすことができる。石渡聡氏は Bielefeld 大学 Grigoryan 教授と共同で回転面に沿ったユークリッド空間の連結和の熱核の評価について一定の成果を得た。各分担者の研究は確率論的手法に基づいておりそれぞれの側面から測度距離空間の解析と幾何学を展開してきた。メインの各となる研究がまだ未発展であるにも関わらずそれを後押しする研究が進んでいることからおおむね順調に研究は進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の研究の進展状況での述べたように 2-一様凸空間でのエネルギー汎関数の調和写像の解析的かつ確率論的特徴付けをしていく計画である。既に、分担者ではないが京都大学数理解析研究所・助教の横田巧氏と、マルコフ連鎖あるいはマルコフ過程に基づいた 半径がπ/2未満のCAT(1)空間値の調和写像の共同研究を開始しており、最終目標にはほど遠いが、残り1年間という時間的制約内に部分的結果を達成する計画をもっている。横田氏は半径がπ/2未満のCAT(1)空間で調和写像の研究において重要な凸幾何学性を導出することに成功しており、それを用いてこの空間でのJensen の不等式を得た。この結果は研究代表者が半径π/2未満でなく直径π/2未満未満の場合に得たJensen不等式の結果の拡張になっており、これを用いることで古典的な伊藤の確率解析に基づく調和写像理論の確率解析による特徴付けを径がπ/2未満のCAT(1)空間値調和写像理論に対して同様にできると考えている。最終的には当初から抱いていた最終目標に達成できない可能性ではあるが、次の研究課題として繋げていくことができればと考えている。
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Research Products
(45 results)